抗がん剤治療を受けていると、吐き気やだるさ、手足のしびれなど、さまざまな副作用が現れることがあります。ところが、診察室では「特に変わりありません」と答えてしまうことも。「このくらいなら我慢できる」「副作用を伝えたら抗がん剤を減量されるかもしれない」と考えて、症状を伝えるのをためらう人もいるのではないでしょうか。
副作用は、医師に伝えた方がよいと分かっていても、なかなか言い出せないものです。その背景には、治療を続けたいという思いだけでなく、医師への遠慮や、何をどこまで相談してよいか分からないという戸惑いもあります。
副作用を伝えたら、治療を止められるかもしれない
副作用を我慢してしまう理由のひとつに、治療への影響を心配する気持ちがあります。
せっかく治療が順調に進んでいるのに、少しつらいと伝えただけで薬を減らされてしまったらどうしよう。できるだけ予定どおりに治療を受けたいから、多少の不調は我慢しておこう。そんなふうに考える人もいるでしょう。
実際、副作用の程度によっては、抗がん剤を減量したり、一時的に休薬したりすることがあります。ただし、副作用を報告したからといって、必ず治療が変更されるわけではありません。
例えば、吐き気には制吐薬を調整する、便秘には薬や生活面での対策を考えるなど、症状を和らげる方法が見つかる場合もあります。一方、重い副作用が起きている場合は、無理に治療を続けることで健康を損なうおそれもあります。
副作用を伝えることは、治療をやめるためではなく、安全に治療を進めるための情報を医療者と共有することです。治療を続けたいという気持ちも、医師に伝えておきましょう。
「先生は忙しそう」「この程度で相談していいのかな」
診察室に入ると、医師は検査結果を確認し、次の治療予定を説明し、処方箋を出して……と、次々に話が進んでいきます。聞きたいことを考えていたはずなのに、気づけば診察が終わっていたという経験はないでしょうか。
特に、検査結果が良好だったり、治療が予定どおり進んでいたりすると、「実は最近、少しつらくて」と話を切り出しにくくなることもあります。
また、何が副作用なのか判断できない場合もあります。年齢のせいなのか、疲れているだけなのか、それとも薬の影響なのか。原因が分からないままでは、医師に相談するほどのことなのか迷ってしまいます。
けれども、患者自身が副作用かどうかを判断する必要はありません。治療中に起きた体調の変化を伝え、その原因や対応を医療者と一緒に考えることも診察の一部です。
医師に直接話しにくい場合は、看護師や薬剤師に相談する方法もあります。
患者が感じている副作用は、医師にどこまで伝わっている?
患者が感じている症状と、医療者が評価する症状には、違いが生じることがあります。
2006年に発表された米国の研究では、がん患者本人と医療者による副作用の評価を比較しています。両者の評価はおおむね一致していたものの、一部の症状では違いも見られました。
痛みや吐き気、疲労感などは、血液検査や画像検査だけでは十分に分からない症状です。診察室では元気に話していても、自宅では疲れて横になっている時間が長いかもしれません。食事が取れない日が続いていても、そのことを話さなければ医療者が把握できない場合があります。
こうした問題を背景に、近年は患者自身が症状を記録・報告する仕組みも研究されてきました。米国国立がん研究所が開発した「PRO-CTCAE」も、そのひとつです。患者が感じる症状の頻度や程度、日常生活への影響などを直接評価するために作られました。
もちろん、すべての病院でこうした仕組みが使われているわけではありません。患者自身が感じている症状も、副作用を評価するための大切な情報です。
副作用は、どのように伝えればいい?
副作用を説明するときは、症状だけでなく、いつから起きているか、生活にどんな影響があるかを伝えると、医療者が状態を判断する手がかりになります。
例えば、「手がしびれます」だけでなく、「先週から指先がしびれて、ボタンを留めにくくなりました」と伝えると、日常生活への影響も分かります。「疲れやすい」という症状も、「夕方になると横にならないと動けない」と説明すれば、程度を具体的に伝えられます。
診察のときに忘れてしまいそうなら、スマートフォンや手帳にメモしておくのもよいでしょう。毎日詳しく記録する必要はありません。気になった症状と、いつ頃から始まったかを書き留めるだけでも役立ちます。
薬を減らされるのが心配なら、その不安も医師に伝えておくとよいでしょう。症状への対応と治療方針について、医師と話し合うきっかけになります。
症状によっては、次の診察を待たずに連絡が必要です。抗がん剤治療中の発熱は、感染症などの重要なサインになることがあります。病院から指示された体温や症状の基準に従って連絡し、急な息苦しさ、意識の異常、大量の出血などがある場合は、救急受診や119番への連絡が必要になることもあります。
我慢できることと、我慢した方がよいことは違う
副作用には個人差があります。同じ薬を使っていても、ほとんど気にならない人もいれば、日常生活に大きな支障が出る人もいます。また、つらさの感じ方も人によって異なります。
そのため、「ほかの患者さんはもっと大変そうだから」「この程度なら我慢できるから」と、誰かと比べる必要はありません。
治療中の体調について、医師が知りたいのは検査結果だけではありません。食事ができているか、眠れているか、普段どおりに生活できているか。そうした情報も、治療を安全に進めるための判断材料になります。
副作用を伝えた結果、薬の調整が必要になることもあります。しかし、それは必ずしも治療がうまくいっていないという意味ではありません。症状に応じて治療方法を見直すことも、がん治療の大切な一部です。
次の診察で「何か変わったことはありますか」と聞かれたら、気になっている症状を伝えてみましょう。副作用かどうか分からなくても、医師に相談することはできます。患者自身がすべてを判断する必要はありません。
キャンエビのまとめ
- 「副作用を伝えると薬を減らされるかもしれない」という不安や、医師への遠慮から、症状を我慢してしまうことがある。
- 副作用を報告しても、必ずしも治療が中止されるわけではない。症状を和らげる方法が見つかる場合もある。
- 痛み、吐き気、疲労感など、患者自身が感じる症状は治療の重要な情報になる。
- 症状が始まった時期や生活への影響を伝えると、医師が状態を判断しやすくなる。
- 強い症状や急な悪化、治療中の発熱などは、次の診察を待たずに病院へ相談する。
参考文献
- Patient–Clinician Communication: American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline(ASCO、2017年)
- Patient versus clinician symptom reporting using the National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events: results of a questionnaire-based study(2006年)
- Overview of the PRO-CTCAE(米国国立がん研究所)








