日本で一緒に暮らしている外国籍の夫や妻が、がんと診断された。これからどんな治療を受けるのか、仕事や生活はどうなるのか。心配なことは次々に浮かんでくるかもしれません。
そこに、言葉や文化の違い、母国の家族との連絡、在留資格の問題などが重なることもあります。日本人の配偶者として、病院での説明や手続きを自分が全部引き受けなければ、と感じる人もいるでしょう。
けれども、日本人の夫・妻が、通訳も手続きも一人で担う必要はありません。 日本には、がん患者と家族を支える相談窓口があり、医療通訳や医療費、仕事について相談できる場合もあります。
この記事では、外国籍の配偶者が日本でがんと診断されたとき、夫婦で確認しておきたいことと、利用できる支援について紹介します。
診断されたら、まずは治療の説明を一緒に整理する
がんと診断された直後は、病名を聞いただけで頭がいっぱいになり、その後の説明が十分に入ってこないこともあります。これは患者本人だけでなく、付き添っている家族にも起こることです。
まず確認したいのは、どのようながんと診断されたのか、追加の検査が必要なのか、今後どのような治療が考えられているのか、ということです。
その場ですべてを理解する必要はありません。分からなかったことはメモしておき、次の診察で質問しても大丈夫です。治療方針がまだ決まっていない段階なら、いつ、どのような検査や説明が予定されているのかを確認しておくと、今後の見通しを立てやすくなります。
ここで大切なのは、日本語が分かる配偶者だけでなく、患者本人が説明を理解できているかということです。
日本語での会話に慣れている人でも、病名や治療方法、副作用などの専門的な説明は難しい場合があります。本人が理解しやすい言語で説明を受けられるよう、必要に応じて医療通訳を利用できないか病院に相談してみましょう。
日本人の配偶者が、通訳を全部引き受けなくてもいい
夫婦のどちらかが日本語を話せると、病院では自然とその人が通訳役になることがあります。医師の説明を聞き、患者本人に伝え、本人の質問を日本語に訳す。普段の生活では問題なく会話できていても、がん治療の場面では負担が大きくなるかもしれません。
たとえば、医師が治療の効果や副作用について説明しているとき、自分自身も不安を感じながら、その内容を正確に別の言語へ訳さなければなりません。専門用語が分からなかったり、説明の一部を聞き逃したりすることもあるでしょう。
また、医師が日本語を話す配偶者に向かって説明を続け、患者本人が会話から取り残されてしまうことも考えられます。誰かに悪意があるわけではなくても、言葉の壁があると起こり得る状況です。
厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」でも、家族や友人による通訳には、医療用語の理解や通訳の正確さ、プライバシーなどの面で注意が必要だとされています。
家族として付き添うことと、医療通訳を担当することは別の役割です。 重要な治療説明では、病院に専門の医療通訳を利用できないか尋ねてみてください。病院によっては、電話やビデオ通話による通訳を利用できる場合もあります。
通訳者がいることで、日本人の配偶者も説明を聞くことに集中でき、本人と一緒に質問を考えやすくなるでしょう。
治療を選ぶのは、患者本人
家族として治療を支えたいと思うのは自然なことです。ただ、どの治療を受けるか、何を大切にして生活したいかについては、患者本人の希望を確認することが欠かせません。
たとえば、治療の効果を重視したい人もいれば、副作用や仕事への影響を気にする人もいます。母国に帰って治療したいと考える人もいるかもしれません。
日本人の配偶者が医師の説明を理解できたとしても、患者本人が同じように理解し、納得しているとは限りません。特に手術や抗がん剤治療などの重要な説明では、本人が自分の言葉で質問できる機会を確保したいところです。
また、病状について家族にどこまで伝えるかも、基本的には本人の希望を尊重する必要があります。日本人の配偶者が母国の家族に説明する前に、本人が何を伝えたいのか、誰に知らせたいのかを話し合っておくとよいでしょう。
健康保険と高額療養費制度は利用できる?
外国籍であっても、日本の公的医療保険に加入していれば、保険が適用されるがん治療を原則として日本人の患者と同じ仕組みで受けられます。
日本人の配偶者の勤務先の健康保険で被扶養者になっている場合もあれば、自分の勤務先の健康保険や国民健康保険に加入している場合もあります。まずは、患者本人がどの健康保険に加入しているかを確認しましょう。
公的医療保険に加入している場合、医療費の自己負担額が一定の上限を超えると、高額療養費制度を利用できることがあります。自己負担の上限額は年齢や所得などによって異なり、保険適用外の費用は対象になりません。
マイナ保険証などを使って医療機関が限度額情報を確認できる場合は、従来の限度額適用認定証を事前に申請しなくても、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられることがあります。利用条件や手続きについては、加入している健康保険の窓口や病院で確認してください。
なお、健康保険に加入できるかどうかは、国籍だけで決まるわけではありません。在留資格や居住状況、就労条件などが関係します。加入状況が分からない場合は、勤務先や市区町村の窓口に相談しましょう。
医療費の詳しい仕組みについては、関連記事「外国人が日本でがん治療を受けるには? 保険・自費診療・受診までの流れ」でも紹介しています。
がん治療で休職したら、在留資格はどうなる?
外国籍の配偶者が日本で働いている場合、がん治療のために仕事を休むことが必要になるかもしれません。そのとき、収入だけでなく、在留資格への影響を心配する人もいるでしょう。
ここで確認したいのは、現在どの在留資格で日本に住んでいるかということです。
たとえば「日本人の配偶者等」の在留資格は、日本人との婚姻関係などに基づくもので、特定の仕事に従事することを条件とした在留資格ではありません。そのため、がん治療のために休職したり退職したりしたことだけで、直ちに在留資格が失われるわけではありません。
一方、「技術・人文知識・国際業務」などの就労に関係する在留資格で滞在している場合は、退職や長期間の休職について、在留資格上の手続きや今後の在留への影響を確認する必要が生じることがあります。
ただし、病気による療養が必要な場合と、正当な理由なく在留資格に対応する活動を行っていない場合は、同じように扱われるとは限りません。病気になったからといって、自動的に在留資格を失うということではありません。
また、在留資格の更新時期が近づいている場合は、治療予定と手続きの時期が重なる可能性もあります。必要に応じて診断書などを準備し、出入国在留管理庁や外国人在留支援センターなどに早めに相談しておくとよいでしょう。
仕事については、勤務先の休職制度や有給休暇、健康保険の傷病手当金なども確認しておきたいところです。傷病手当金は、加入している健康保険や働き方などによって利用条件が異なります。
母国の家族には、どう伝える?
外国籍の配偶者ががんと診断されたとき、母国にいる家族へ知らせるかどうか、いつ伝えるかで迷うこともあるでしょう。
母国の家族が遠く離れて暮らしている場合、心配をかけたくないと考える人もいれば、早く知らせて支えてほしいと考える人もいます。病気について家族でどの程度話すかは、文化や家庭によっても違いがあります。
まずは患者本人に、誰に、どこまで伝えたいかを確認することが大切です。日本人の配偶者が善意で詳しい病状を伝えたとしても、本人がまだ知らせたくなかったということもあり得ます。
母国の家族に治療内容を説明する必要がある場合は、診断名や治療計画をまとめた資料があると役立つことがあります。病院によっては、診療情報提供書などの作成を依頼できますが、外国語への翻訳に対応しているかどうかは別途確認が必要です。
日本で治療を続ける? 母国で治療する?
がんと診断されたあと、日本で治療を続けるか、母国へ帰って治療を受けるかを考える夫婦もいるかもしれません。
日本には仕事や生活の基盤がある一方、母国には家族や親しい友人がいて、母語で医療を受けられる安心感があるかもしれません。どちらがよいかは、病状や治療内容、本人の希望、家族の事情によって異なります。
母国での治療を考える場合は、現在の主治医に相談し、必要な診療情報を準備しましょう。画像検査や病理検査の結果、これまでの治療内容、使用した薬の情報などは、別の病院で治療を引き継ぐ際に重要になります。
また、帰国先で同じ治療を受けられるとは限りません。使用できる薬や保険制度、医療機関の体制などは国によって異なるため、帰国先の病院にも事前に確認する必要があります。
抗がん剤治療中などの場合は、治療の間隔や副作用への対応も考慮しなければなりません。渡航の時期や方法については、主治医と相談して決めることが大切です。
帰国するかどうかを、診断直後に急いで決める必要があるとは限りません。治療の緊急性や選択肢を確認しながら、夫婦で話し合っていきましょう。
日本人の配偶者も、がん相談支援センターを利用できる
がんと診断された人を支える家族も、不安や疲れを感じることがあります。病院での付き添い、仕事、家事、医療費、母国の家族との連絡など、考えることが一度に増えるかもしれません。
そんなときに利用したいのが、がん相談支援センターです。
がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている相談窓口で、患者本人だけでなく家族も利用できます。その病院に通院していない人でも相談でき、相談は無料です。相談内容の秘密も守られます。
相談できる内容は、治療や副作用に関する疑問、医療費や仕事の問題、療養生活の不安、家族との関係などさまざまです。外国籍の配偶者がいる場合は、医療通訳や地域の外国人支援窓口について、利用できる情報がないか尋ねてみてもよいでしょう。
ただし、がん相談支援センター自体が、すべての言語で相談に対応しているわけではありません。言葉の支援が必要な場合は、事前に確認してください。
国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」
また、在留資格や外国人の生活相談については、出入国在留管理庁の外国人在留支援センター(FRESC)や、地域の外国人相談窓口なども相談先になります。
患者本人のことも、日本人の配偶者自身のことも、夫婦だけで抱え込まなくて大丈夫です。 医療のことは病院やがん相談支援センターへ、在留や生活のことは専門の相談窓口へと、必要に応じて相談先を分けて考えることもできます。
キャンエビのまとめ
- 外国籍の配偶者ががんと診断されたら、まずは本人が診断内容と今後の治療について理解できているか確認しましょう。
- 日本人の夫・妻が医療通訳をすべて引き受ける必要はありません。重要な説明では、専門の医療通訳を利用できないか病院に相談できます。
- 日本の公的医療保険に加入していれば、国籍にかかわらず、保険が適用されるがん治療や高額療養費制度を利用できます。
- 休職や退職が在留資格にどう関係するかは、現在の在留資格によって異なります。病気になっただけで、直ちに在留資格を失うわけではありません。
- 母国の家族への連絡や、どの国で治療を続けるかについては、患者本人の希望を大切にしながら話し合いましょう。
- がん相談支援センターは、患者本人だけでなく家族も無料で相談できます。
がん治療は、患者本人だけでなく家族の生活にも大きく関わります。言葉や制度の違いがあっても、すべてを夫婦だけで解決しなければならないわけではありません。利用できる支援を一つずつ確認しながら、本人と家族の両方が無理なく治療に向き合える方法を探していきましょう。
参考文献
- 厚生労働省「国民健康保険の外国人被保険者について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21895.html - 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173230_00003.html - 厚生労働省「医療通訳に関する資料一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056944.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」
https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html - 出入国在留管理庁「外国人在留支援センター(FRESC)」
https://www.moj.go.jp/isa/support/fresc/fresc01.html - 出入国在留管理庁「在留資格取消制度」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/torikeshi_00002.html








