日本に住んでいる外国籍の人ががんと診断されたとき、日本の健康保険は使えるのでしょうか。また、海外に住んでいる人が、日本でがん治療を受けたいと考えた場合は、どこに相談すればよいのでしょうか。
日本でがん治療を受ける方法は、日本に住んでいるか、海外から治療のために来日するかによって大きく異なります。 日本の公的医療保険に加入していれば、国籍にかかわらず、保険が適用されるがん治療を受けられます。一方、海外から治療目的で来日する場合は、原則として日本の公的医療保険を使わず、治療費を自己負担することになります。
この記事では、それぞれの場合の健康保険の扱い、治療費、病院の探し方、来日に必要な手続きについて整理します。
日本に住んでいる外国人は、健康保険を使える?
日本の公的医療保険は、日本国籍を持つ人だけの制度ではありません。日本に住所があり、勤務先の健康保険や国民健康保険などの加入要件を満たしている外国籍の人も、制度に加入できます。
会社などで働いている人は、勤務先を通じて健康保険に加入する場合があります。それ以外の人も、住民登録や在留資格などの要件を満たしていれば、国民健康保険の対象になることがあります。家族の健康保険の被扶養者になっている人もいるでしょう。
ただし、外国籍で日本に滞在していれば誰でも加入できるわけではありません。滞在期間や在留資格、住民登録の状況、勤務先での加入条件などによって扱いが異なります。短期滞在者は原則として対象外で、医療を受ける目的で滞在する人についても、加入が認められない場合があります。
すでに日本の公的医療保険に加入している人なら、保険が適用される手術、抗がん剤治療、放射線治療などを、原則として日本人の患者と同じ仕組みで受けられます。医療費の自己負担割合も、国籍ではなく年齢や所得などの条件によって決まります。
また、保険診療の自己負担額が一定の上限を超えた場合には、高額療養費制度を利用できることがあります。がん治療では医療費が高額になる場合があるため、加入している健康保険の窓口で確認しておくとよいでしょう。
保険に加入しているか分からない場合や、加入手続きが済んでいない場合は、勤務先や市区町村の国民健康保険窓口に相談してください。
海外から日本へ、がん治療を受けに来ることはできる?
海外に住んでいる人が、日本の病院でがん治療を受けることも可能です。ただし、希望する病院で必ず治療を受けられるわけではありません。
がんの種類や進行状況、希望する治療、病院の受入体制などによって、対応できるかどうかが変わります。日本で受けたい治療があっても、現在の病状やこれまでの治療経過によっては、別の治療方法を提案されたり、受入れが難しいと判断されたりすることもあります。
また、海外から治療のために来日する場合は、日本の公的医療保険に加入できることを前提に計画を立てないようにしましょう。日本での診療費に加えて、渡航費、滞在費、通訳費用なども含めて考える必要があります。
まずは受診したい病院の国際診療窓口などに、海外在住者の受入れに対応しているか問い合わせるところから始めます。
公的医療保険が使えない場合、治療費はどうなる?
日本の公的医療保険が使えない場合、診療は原則として自費になります。ここで注意したいのは、自費診療の費用が、保険診療の自己負担分を単純に10割に換算した金額とは限らないことです。
日本の保険診療では、診療報酬の点数をもとに医療費を計算します。一方、公的医療保険に加入していない訪日外国人患者への自由診療では、医療機関ごとに異なる料金設定が行われる場合があります。
たとえば、診療報酬1点を10円ではなく、20円や30円として計算する方法や、検査・治療を組み合わせた料金を設定する方法があります。ただし、すべての病院が同じ料金体系を採用しているわけではなく、医療機関の種類によって価格設定に関する制度上の条件も異なります。
がん治療では、診断のための検査、手術、入院、抗がん剤、放射線治療など、必要な医療の内容が人によって大きく異なります。抗がん剤も薬の種類や投与回数によって費用が変わるため、治療費を一律に示すことはできません。
そのため、受入れを希望する病院には、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 初診や検査にかかる費用
- 予定している治療の概算費用と、追加費用が発生する条件
- 入院時の前払金や保証金の有無
- 利用できる支払い方法
- 医療通訳や書類翻訳にかかる費用
- 治療内容が変更された場合の精算方法
民間医療保険に加入している場合も、契約内容の確認が必要です。旅行保険などでは、渡航前から診断されていた病気や、治療を目的とした渡航が補償の対象外になることがあります。保険に加入しているだけで、予定しているがん治療が補償されるとは限りません。
日本でがん治療を受けられる病院はどう探す?
日本には、がん診療連携拠点病院をはじめ、がんの診断や治療を行う医療機関が各地にあります。ただし、国内の患者を受け入れている病院が、海外からの治療希望者にも同じ方法で対応しているとは限りません。
海外在住者の場合は、病院のウェブサイトで「国際診療」「外国人患者」「海外からの受診」などの案内を探すと、受入方法が分かることがあります。国際診療窓口がある病院では、必要書類や受診までの手順を案内している場合があります。
また、経済産業省は、海外から日本へ医療を受けに来る人の受入れを支援する取り組みを紹介しています。その中には、外国人患者の受入れに積極的な医療機関を紹介する「ジャパン インターナショナル ホスピタルズ(JIH)」や、医療渡航支援企業に関する情報もあります。
医療渡航支援企業は、病院との連絡、診療情報の準備、渡航日程、通訳、滞在先などの調整を支援する事業者です。サービス内容や費用は事業者によって異なり、利用が必須というわけではありません。ただし、医療滞在査証を申請する場合には、登録された身元保証機関を通じた手続きが必要になります。
病院を探すときは、希望する治療を行っているかだけでなく、海外からの患者を受け入れているか、どのような手続きが必要かをあわせて確認することが大切です。
治療のために来日する場合、医療滞在査証は必要?
海外から日本へ治療を受けに来る場合、国籍や渡航条件、滞在期間などによって、必要な査証(ビザ)や手続きが異なります。
日本には、医療を受けることを目的に訪日する外国人患者や、その同伴者のための医療滞在査証という制度があります。治療だけでなく、検査や人間ドックなども対象に含まれます。
医療滞在査証を申請する場合は、原則として、外務省が案内する登録済みの身元保証機関を通じて受入医療機関を調整します。病院が決まったら、受診等予定証明書や身元保証書などを準備し、日本大使館・総領事館で申請します。
医療滞在査証で認められる滞在期間は、病状などに応じて90日以内、6か月、または1年です。ただし、90日を超える滞在は入院が前提で、その場合には在留資格認定証明書も必要になります。外来通院だけを予定している人が、医療滞在査証によって自由に長期間滞在できるわけではありません。
また、複数回の来日が必要な治療では、医師の治療予定表を提出して、数次査証を申請できる場合もあります。これは、複数回の入国を認める査証で、1回あたりの滞在期間には条件があります。
なお、医療滞在査証が必要かどうかは、本人の国籍や現在の在留資格、渡航の目的などによって異なります。すべての外国人患者が同じ手続きを行うわけではありません。渡航前に、日本大使館・総領事館や出入国在留管理庁の案内を確認してください。
詳しい条件や必要書類は、外務省の公式ページで確認できます。
受診前には、どんな診療情報を準備すればいい?
海外ですでにがんと診断されている場合は、日本の病院に現在の病状や治療経過を伝える必要があります。病院によって必要書類は異なりますが、一般的には診断書、紹介状、検査結果、画像データ、病理検査の結果、これまでに使用した薬の情報などが重要になります。
特に、抗がん剤治療を受けている場合は、薬の名前だけでなく、投与量、投与日、治療の効果、副作用などが分かる資料があると、治療経過を把握する助けになります。
診療情報が外国語で作成されている場合、英語や日本語への翻訳を求められることもあります。病理標本や画像データの提出が必要になる場合もあるため、何を準備すればよいか、受入れを希望する病院に事前に確認しましょう。
また、日本で治療を受けたあと、帰国して治療を続ける予定がある場合は、その後の診療についても考えておきたいところです。抗がん剤の投与間隔や副作用への対応、定期検査などが必要になるため、日本での治療と帰国後の治療をどのようにつなぐか、渡航前から相談しておくと安心です。
日本語が分からない場合、医療通訳は利用できる?
日本語が十分に分からない場合は、病院に医療通訳を利用できるか確認しましょう。院内の通訳者が対応する場合もあれば、電話やビデオ通話で外部の通訳者につなぐ場合もあります。
がん治療では、診断や治療方針、副作用、同意書など、正確に理解しておきたい説明が多くあります。日常会話ができる人でも、専門的な医療用語を理解するのは簡単ではありません。
通訳の利用方法や費用、対応言語は病院によって異なります。海外から治療を受けに来る場合は、通訳の手配が受入条件に含まれていることもあるため、受診前に確認しておきましょう。
医療通訳については、関連記事「日本の病院で医療通訳を頼むには? 利用方法と相談先」でも詳しく紹介しています。
日本でがん治療を受けるまでの流れ
最後に、日本に住んでいる人と、海外から治療目的で来日する人、それぞれの流れを整理します。
日本に住んでいる外国籍の人の場合
- 公的医療保険への加入状況を確認する。
- 病院を受診し、必要に応じてがん診療を行う医療機関への紹介を受ける。
- 診断や治療方針について説明を受け、必要なら医療通訳を相談する。
- 高額療養費制度など、利用できる医療費の制度を確認する。
- 治療内容と通院予定を相談し、治療を始める。
海外から治療のために来日する人の場合
- 現在の病状や治療経過をまとめ、日本で希望する診療を整理する。
- 海外在住者を受け入れている病院や、必要に応じて医療渡航支援企業に問い合わせる。
- 診療情報を提出し、受入可否や治療の見通し、費用を確認する。
- 必要な査証や渡航手続き、通訳、滞在先、支払い方法を準備する。
- 来日後に診察を受け、日本の医師と実際の治療方針を相談する。
海外からの受診では、来日前に想定していた治療が、診察や追加検査の結果によって変更されることもあります。渡航日程や費用には、ある程度の余裕を持たせておくことが大切です。
キャンエビのまとめ
- 日本の公的医療保険は、外国籍の人も加入要件を満たせば利用できます。 国籍だけで利用の可否が決まるわけではありません。
- 海外から日本へがん治療を受けに来る場合は、原則として自費診療を前提に、受入病院や費用を確認します。
- 自費診療の料金は病院によって異なり、保険診療の10割分と同じ金額になるとは限りません。
- 治療目的の来日では、国籍や滞在条件に応じて医療滞在査証などの手続きが必要になる場合があります。
- 受診前には、診療情報、費用、通訳、渡航手続き、帰国後の治療について確認しておくと、準備を進めやすくなります。
日本に住んでいる人も、海外から治療を受けに来る人も、まずは自分の状況に合った相談先を見つけることが大切です。健康保険や査証の制度は複雑ですが、病院の国際診療窓口や自治体、在外公館など、それぞれの専門窓口に確認しながら進めることができます。
参考文献
- 厚生労働省「国民健康保険の外国人被保険者について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21895.html - 厚生労働省「訪日時の医療機関受診に備えて、民間医療保険の加入を強く推奨します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46516.html - 厚生労働省「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアルについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/newpage_08838.html - 厚生労働省「社会医療法人等が行う訪日外国人患者の自由診療に係る診療費の上限について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/newpage_00026.html - 外務省「医療滞在査証を申請される外国人患者等の皆様へ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/medical/patient.html - 経済産業省「渡航受診者の受入支援(インバウンド)」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kokusaitenkai/inbound.html - 経済産業省「医療渡航支援企業向け情報」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kokusaitenkai/iryotokoshienkigyomuke.html








