「治療が一段落したら旅行に行きたい」「体調が落ち着いたら、久しぶりにどこかへ行きたい」。がん治療中、そんなことを考える人もいるのではないでしょうか。
実は日本で、がんを経験した人211人を対象に「なぜ旅行したいと思うのか」を調べた研究があります。調べてみると、旅行に求めるものは一つではなく、治療中なのか、治療を終えて寛解期にいるのかによっても少し違いがありました。
がん経験者211人に「旅行したい理由」を調査
2025年、日本国際観光学会論文集に「治療段階別にみたがんサバイバーの旅行動機」という研究が発表されました。オンライン調査に参加したのは、がんを経験した211人です。
研究者が注目したのは、「がん経験者はどのくらい旅行するのか」ではなく、「なぜ旅行したいと思うのか」という旅行の動機でした。回答を分析したところ、旅行したい理由は大きく二つの方向に分かれました。
一つ目は「病気からの解放・新しい始まり」
一つ目は、研究で「Release from Illness & New Beginnings」と名付けられた動機です。旅行によって、一時的に「病気である自分」という意識から離れたり、自尊感情を取り戻したりすることなどが含まれています。
治療中は、通院や検査、薬、副作用など、どうしても病気を意識する時間が増えます。そんな日常から場所を変えることが、単なる観光や娯楽とは少し違う意味を持つ人もいることが、この調査から見えてきます。
もう一つは「リラックスして楽しみたい」
二つ目は「Relaxation & Enjoyment」。こちらは、ストレスを和らげたい、旅行そのものを楽しみたいといった、より一般的な旅行の動機です。
これは、がんを経験していない人が旅行へ行きたくなる理由とも重なるでしょう。「病気から離れるため」というより、きれいな景色を見たり、おいしいものを食べたり、いつもと違う場所でのんびりしたりする。旅行そのものを楽しむことが目的になっています。
治療中と寛解期では、旅行に求めるものが少し違った
この研究で特に興味深いのが、治療段階による違いです。治療中の人では「病気からの解放・回復」に関係する動機がより強く、寛解期の人では「リラックス・楽しみ」を求める傾向がより強くみられました。
つまり、同じ「旅行に行きたい」でも、その中身は同じとは限りません。治療中には病気から少し距離を置く時間として旅行を求め、治療が一段落した後には、もっと純粋に旅行そのものを楽しみたいという気持ちへ変わっていく人もいることが示唆されています。
旅行は「治療が終わってからするもの」とも限らない
「がん患者と旅行」というと、治療がすべて終わってから行くものというイメージもあります。しかし今回の研究には治療中の人も含まれていて、その人たちにも旅行への動機がみられました。
もちろん、この研究は「治療中でも旅行して大丈夫」と安全性を調べたものではありません。旅行できる時期や範囲は治療内容や体調によって違いますが、治療中にも旅行したいという気持ちそのものが存在し、その意味について研究されているというのは興味深いところです。
「旅行すればQOLが上がる」と証明した研究ではない
この研究では、旅行が病気から離れる感覚やリラックスなどにつながる可能性について考察されています。ただし、実際に旅行した人と旅行しなかった人を比較して、「旅行したからQOLが改善した」と証明した研究ではありません。
また、調査対象は211人で、すべてのがん患者・経験者に同じ傾向があるとは限りません。研究者も、がん経験者が旅行するときにどのような障壁があるのかについては、今後さらに調べる必要があるとしています。
それでも「旅行したい理由」を調べるのは面白い
がんと旅行について調べるというと、感染症や移動時間、薬の持ち運びなど「どうすれば安全に旅行できるか」という話になりがちです。でも、この研究が調べたのはその一歩手前にある、「そもそも、なぜ旅行に行きたいのか」という気持ちでした。
治療中には病気から少し離れるための旅行、治療が一段落した後にはリラックスして楽しむための旅行。同じ旅行でも、治療の段階によってそこに求めるものが変わる可能性があるという結果は、がん治療と日常生活の関係を考えるうえでも興味深いものです。
キャンエビのまとめ
- 日本のがん経験者211人を対象にした調査では、旅行したい理由として大きく「病気からの解放・新しい始まり」と「リラックス・楽しみ」の二つが見つかりました。
- 治療中の人では「病気からの解放・回復」に関係する動機が強く、寛解期の人では「リラックス」を求める傾向がより強くみられました。
- この研究は「旅行するとQOLが改善する」「治療中でも旅行してよい」と証明したものではありません。
- がん経験者にとって旅行は単なる娯楽だけでなく、病気から少し離れる時間や、新しい生活へ向かうきっかけという意味を持つ場合もあることが示唆されています。
参考文献
- 治療段階別にみたがんサバイバーの旅行動機(横断研究、2025-01-01)








