「玄米と野菜を中心に食べれば、がんが治る」「肉や乳製品をやめれば、がんは小さくなる」。がんになると、こうした食事法を勧められることがあります。
玄米や野菜を食べること自体と、それらを「がんを治す方法」と考えることは別の話です。全粒穀物や野菜を含む食事には、がんの予防や健康との関係を調べた研究があります。しかし、玄米菜食だけで、すでにあるがんが治ることを示す信頼できる臨床研究はありません。
玄米や全粒穀物については、どんな研究がある?
玄米は、精白すると取り除かれるぬかや胚芽を残した全粒穀物の一つです。全粒穀物については、特に大腸がんの発症リスクとの関係がよく研究されています。
世界がん研究基金(WCRF)がまとめた研究では、全粒穀物を多くとることは大腸がんの発症リスク低下と関連しており、1日90g多くとるごとに大腸がんの相対リスクが17%低いという解析結果が報告されています。
ただし、ここで調べられているのは主に「普段どのくらい全粒穀物を食べている人が、その後がんになったか」という発症リスクです。「がんになった人が玄米を食べると、がんが縮小するか」を調べた研究ではありません。
さらに、「全粒穀物」という食品群についての研究結果を、そのまま「玄米にはがんを治す効果がある」と読み替えることもできません。
野菜をたくさん食べれば、がんは治る?
野菜や果物を多く含む食事も、がん予防との関係が長く研究されてきました。ただし、「野菜を多く食べれば、あらゆるがんを予防できる」とまで単純な話ではありません。がんの種類によって研究結果は異なり、野菜単独の効果がはっきりしないものもあります。
米国がん協会(ACS)は、がん予防のための健康的な食事として、さまざまな野菜、果物、全粒穀物、豆類などを含む食事パターンを勧めています。がんと診断された後についても、栄養不足などの問題がなければ、こうした健康的な食事パターンが基本とされています。
ここでも、「健康的な食事として勧められている」ことと、「その食事でがんを治療できる」ことは分けて考える必要があります。
「玄米菜食」という食事法で、がんを治療した研究はある?
玄米や野菜中心の食事法としてよく知られているものに、マクロビオティックがあります。内容には幅がありますが、全粒穀物や野菜、豆類などを中心とする食事です。
米国国立がん研究所(NCI)は、マクロビオティック食をがんの補完・代替療法として検討した臨床試験、観察研究、パイロット研究はなく、がん治療として使用する科学的根拠はないとしています。
過去には、マクロビオティックを実践したがん患者の生存期間を調べようとした報告もありました。しかし、対象者の選び方や比較方法などに大きな問題があり、食事によって生存期間が延びたと判断できる研究ではありませんでした。その後も、玄米菜食だけでがんが縮小する、あるいは生存期間が延びることを確かめた質の高い臨床試験は示されていません。
つまり、「玄米には健康との関係を調べた研究がある」「植物性食品を多く含む食事は健康的な食事として推奨されている」というところまでは根拠があります。しかし、そこから「玄米菜食でがんが治る」へ進むための証拠が抜けています。
「玄米菜食で治った」という体験談はどう考える?
インターネットや本では、「玄米菜食に変えてからがんが消えた」「食事だけで治った」という体験談を見かけることがあります。マクロビオティックががん治療として広まった背景にも、こうした症例報告や体験談がありました。
その人に実際に何らかの変化が起きたことと、その原因が食事だったと証明できることは別です。その間に手術、薬物療法、放射線治療などを受けていたのか、どのような検査で変化を確認したのか、同じ状態でその食事をしなかった人と比べてどうだったのかが分からなければ、食事の効果とは判断できません。
一人の経験から治療効果を判断することが難しいのは、玄米菜食に限った話ではありません。薬の効果を確かめるときにも、多くの患者を対象に比較する臨床試験が行われるのはそのためです。
「健康によい」と「がんを治す」の間には距離がある
ここは、玄米菜食について考えるときに最も大切なところです。
全粒穀物を食べることと大腸がんの発症リスク低下には関連がある。野菜、果物、全粒穀物、豆類などを含む食事は、健康的な食事パターンとして推奨されている。ここまでは研究による裏付けがあります。
しかし、それは「玄米や野菜に抗がん剤のような治療効果がある」という意味ではありません。予防についての研究、診断後の健康や栄養についての研究、すでにあるがんを治療する研究は、それぞれ別のものです。
玄米や野菜が好きなら、食事として取り入れることに問題はありません。一方、厳しい食事制限によって食べられる量が減ったり、治療中に必要なエネルギーやたんぱく質を十分にとれなくなったりする場合には注意が必要です。治療中は食欲や消化の状態も変わるため、「玄米菜食を守ること」より、その時に必要な栄養を確保することの方が重要になる場合もあります。
キャンエビのまとめ
- 全粒穀物と大腸がんの発症リスク低下には、比較的しっかりした研究があります。
- 野菜、果物、全粒穀物、豆類などを含む食事は、がん予防や診断後の健康を考えるうえでも推奨されています。
- ただし、これらは「玄米菜食で、すでにあるがんが治る」ことを示す研究ではありません。
- 玄米菜食やマクロビオティックを、がん治療として支持する信頼できる臨床的な根拠は確認されていません。
- 「健康によい食事」と「がんを治す治療」は、分けて考える必要があります。
参考文献
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