「治療中はタンパク質をしっかり摂った方がいい」と聞いて、スーパーやネットショップで高タンパク食品を探してみる。ところが、目に入るのは「ダイエット」「糖質オフ」「低脂質」「低カロリー」といった言葉ばかり。
「いや、私は別に痩せたいわけじゃないんだけど……」
そんなふうに思ったことはありませんか? がん治療中には、体重を減らすことより、今の体重や筋肉量を維持することが大切になる場合があります。高タンパク食品は便利ですが、選ぶときにはタンパク質の量だけでなく、エネルギー(カロリー)にも目を向けたいところです。
高タンパク食品は、なぜダイエット向けが多いの?
高タンパク食品には、筋力トレーニングやボディメイク、ダイエットを意識した商品が数多くあります。タンパク質を多く摂りながら、エネルギーや脂質、糖質を抑えたい人に向けた商品です。
例えば、プロテイン飲料や高タンパクヨーグルト、プロテインバーなどには、タンパク質の含有量と一緒に「脂肪ゼロ」「低糖質」などを強調したものがあります。もちろん、こうした商品が悪いわけではありません。目的に合っていれば、便利な選択肢になります。
ただ、がん治療中の人が高タンパク食品を探す理由は、必ずしもダイエットではありません。食欲が落ちて十分に食べられない、筋肉量を維持したい、体重が減ってきたので栄養を補いたいなど、さまざまな事情があります。
大切なのは、「高タンパク」という表示だけで選ばず、自分が何を補いたいのかを考えることです。
がん治療中は、タンパク質だけでなくカロリーも大切
タンパク質は筋肉をはじめ、体のさまざまな組織をつくる材料です。一方、エネルギーは体を動かし、生命活動を維持するために必要です。どちらか一方だけを十分に摂ればよい、というものではありません。
食事からのエネルギーが不足すると、体は蓄えた脂肪だけでなく、筋肉などのタンパク質もエネルギー源として利用することがあります。そのため、筋肉量を維持したい場合には、タンパク質の摂取量だけでなく、食事全体のエネルギー量も重要になります。
欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の2021年のガイドラインでは、がん患者の必要量を個別に測定できない場合、次の数値を一般的な目安としています。
| 栄養素 | 1日あたりの目安 |
|---|---|
| エネルギー | 体重1kgにつき25〜30kcal |
| タンパク質 | 体重1kgにつき1g以上、可能なら1.5gまで |
例えば体重50kgなら、単純計算でエネルギーは1,250〜1,500kcal、タンパク質は50g以上、可能なら75g程度までが目安になります。
ただし、これは全員に当てはまる目標値ではありません。体格や活動量、栄養状態、治療内容などによって必要量は異なります。特に体重が減っている人では、この計算だけで十分とは限らないため、医師や管理栄養士による個別の評価が大切です。
同じタンパク質20gでも、カロリーはこんなに違う
例えば、次のような2つの商品があったとします。
※以下は説明のための架空の商品例で、実際の市販品の比較ではありません。
| 栄養成分(1個あたり) | 商品A | 商品B |
|---|---|---|
| タンパク質 | 20g | 20g |
| エネルギー | 120kcal | 300kcal |
| 商品の特徴 | 低カロリータイプ | エネルギーも摂れるタイプ |
どちらもタンパク質は20g。けれど、エネルギーには180kcalの差があります。
普段の食事で十分なカロリーを摂れていて、タンパク質だけを少し補いたいなら、商品Aでも目的を果たせるでしょう。一方、食欲が落ちて食事量が減っている人や、体重が減り始めている人には、商品Bのようにエネルギーも補えるものが役立つ場合があります。
ただし、商品Bの方が常に優れているわけではありません。脂質や糖質の量、食べやすさ、ほかの食事との組み合わせによっても選択は変わります。
つまり、同じ「高タンパク食品」でも、何を補うための商品なのかが違うのです。
「高タンパク」「低糖質」「低脂質」は、それぞれ別の特徴
商品のパッケージには、さまざまな栄養表示が並んでいます。似たような健康的なイメージがありますが、それぞれ意味は異なります。
高タンパクはタンパク質を多く含むこと、低糖質は糖質を抑えていること、低脂質は脂質を抑えていることを表しています。これらの特徴が重なる商品もありますが、高タンパクだから必ず低カロリーというわけではありません。
特に注意したいのは、低糖質や低脂質という表示だけでは、その商品に含まれるエネルギー量は分からないことです。糖質が少なくても脂質を多く含む商品はありますし、低脂質でも糖質が多ければ相応のエネルギーがあります。
がん治療中だからといって、全員が糖質や脂質を制限する必要があるわけでもありません。米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2022年のガイドラインでも、低糖質食や低脂質食などの特定の食事法が、治療中の生活の質や治療成績を改善するかについては、推奨するにも否定するにも十分な根拠がないとされています。
一方で、糖尿病などの持病がある場合には、糖質の摂り方を調整する必要があることもあります。一般的な健康食品の宣伝文句をそのまま自分に当てはめるのではなく、今の体調や栄養状態に合っているかを考えたいところです。
栄養成分表示は、ここを確認しよう
高タンパク食品を選ぶときには、パッケージの表側にあるキャッチコピーだけでなく、裏側などに記載された栄養成分表示を確認してみましょう。
まず見たいのは、1個または1本あたりのタンパク質量とエネルギー量です。100gあたりの表示なのか、1包装あたりの表示なのかも確認します。大容量の商品では、実際に食べる量に換算する必要があります。
次に、脂質や炭水化物の量を見ます。体重を維持したいからといって脂質や糖質を無条件に増やせばよいわけではありませんが、エネルギーを補ううえでは、タンパク質以外の栄養素も大切です。
そして忘れたくないのが、実際に食べられるかどうか。どれだけ栄養成分が理想的でも、味が苦手だったり、量が多すぎたりして食べられなければ役に立ちません。治療中は味覚や食欲が変わることもあるので、食べやすさも立派な選択基準です。
食事が摂れている人と、食欲が落ちている人では選び方が違う
普段の食事をある程度食べられていて、体重も安定しているなら、まずは食事全体のバランスを確認しましょう。タンパク質が不足しがちなときには、ヨーグルトや卵、大豆製品などを追加したり、市販の高タンパク食品を間食に取り入れたりする方法があります。
一方、食欲が落ちて食事量が減っている場合には、タンパク質だけでなくエネルギーも不足している可能性があります。そんなときは、少量でエネルギーとタンパク質の両方を補える食品や、必要に応じて栄養補助飲料などを利用する方法もあります。
ESPENのガイドラインでは、低栄養またはそのリスクがある患者に対して、食事の工夫や食べにくさの原因となる症状への対応を行い、必要に応じて経口栄養補助食品を使うことを勧めています。また、低栄養の人やそのリスクがある人に、エネルギー摂取を制限する食事法を用いないよう推奨しています。
食欲が落ちているときには、無理に大量に食べるより、食べられるものを少量ずつ取り入れる方が続けやすいこともあります。ただし、食事量が大きく減っている、体重減少が続いているといった場合には、食品選びだけで解決しようとせず、早めに医療チームに相談しましょう。
特別な高タンパク食品を買わなくても大丈夫
タンパク質を摂るために、必ずしもプロテインバーや専用の飲料を買う必要はありません。魚、肉、卵、牛乳、ヨーグルト、チーズ、豆腐、納豆など、普段の食事に使う食品にもタンパク質は含まれています。
例えば、いつもの食事に卵を一品加える、間食にヨーグルトを食べる、食べやすい豆腐料理を取り入れるといった方法でも、タンパク質を補えます。食事量が減っているときには、主食や脂質なども含めてエネルギーを確保できる組み合わせを考えることが大切です。
市販の高タンパク食品は、調理する元気がないときや、手軽に栄養を補いたいときに便利なものです。ただし、便利だからといって、普通の食事より優れているわけではありません。
毎日の食事で無理なく摂れるなら、それも十分よい選択です。
体重が減ってきたら、食品選びだけで解決しようとしないで
がん治療中の体重減少には、食欲低下や吐き気、味覚の変化、飲み込みにくさなど、さまざまな原因があります。また、がんに伴う炎症や代謝の変化によって、食事量を増やすだけでは体重や筋肉量を維持しにくくなる場合もあります。
そのため、食べているつもりなのに体重が減る、食事量が以前より明らかに減っている、短期間で体重が落ちているといった場合には、医師や管理栄養士に相談してください。食べられない原因への対応や、必要な栄養量の評価、栄養補助食品の利用などを一緒に考えてもらえます。
また、腎機能の低下などでタンパク質の摂取量に制限が必要な人もいます。高タンパク食品を大量に追加する前に、自分に合った量を確認することが大切です。
キャンエビのまとめ
- 高タンパク食品にはダイエット向けの商品も多いですが、がん治療中に食品を選ぶ目的は人それぞれです。
- 体重や筋肉量を維持したい場合には、タンパク質だけでなく、十分なエネルギー摂取も大切です。
- 同じタンパク質量でも、商品によってカロリーは異なります。栄養成分表示を確認しましょう。
- 低カロリーや低糖質の商品が一律に悪いわけではありません。食事全体で何が不足しているかによって選び方が変わります。
- タンパク質は魚、肉、卵、乳製品、大豆製品など、普段の食品からも摂れます。
- 食欲低下や体重減少が続く場合は、食品選びだけで対処しようとせず、医師や管理栄養士に相談しましょう。
参考文献
- ESPEN practical guideline: Clinical Nutrition in cancer(2021)
- がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版-総論編-(日本栄養治療学会)
- Exercise, Diet, and Weight Management During Cancer Treatment: ASCO Guideline(2022)
※この記事は一般的な情報を提供するもので、個別の栄養指導に代わるものではありません。必要な栄養量や食事制限については、担当の医師や管理栄養士にご相談ください。







