がんと診断されたとき、仕事をしている人にとって気になることの一つが、職場への報告です。「上司には病名まで伝えないといけない?」「同僚にも知らせるべき?」「知られたことで、仕事を続けにくくならないだろうか」。治療のことだけでも考えることが多い時期に、職場での伝え方まで悩むのは大変ですよね。
まず知っておきたいのは、がんと診断されたからといって、職場の全員に病名や病状を詳しく説明する必要はないということです。誰に何を伝えるかは、仕事への影響や必要な配慮を考えながら決められます。ただし、休職や勤務調整などの手続きでは、会社に一定の健康情報を伝えたり、診断書を提出したりする必要が生じる場合もあります。
この記事では、上司・人事・同僚それぞれへの伝え方や、病名を伏せたい場合の対応、治療と仕事を両立するために確認しておきたいことを紹介します。
職場にがんの病名を伝える義務はある?
一般に、がんと診断されたことだけを理由に、すべての上司や同僚へ病名を知らせる一律の義務があるわけではありません。病気や治療に関する情報は、慎重に扱う必要がある個人情報です。
厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」でも、病状や治療に関する健康情報は機微な情報であり、法令に基づく健康診断で把握した場合などを除き、原則として会社が本人の同意なく取得してはならないとされています。また、会社が把握した健康情報についても、取り扱う人の範囲を限定するなど、適切な管理が求められています。
ただし、病名を伝える義務が一律にないことと、仕事に必要な情報を一切伝えなくてよいことは別です。休職制度の利用や復職の判断、安全に仕事を続けるための配慮などでは、病状や働ける範囲について、会社が確認する必要がある場合もあります。
例えば、定期的な通院のために休みを取りたい場合は、まず通院の頻度や休みたい日を伝えることから相談できるでしょう。一方、長期間の休職や復職の手続きでは、診断書などの提出を求められることがあります。
大切なのは、仕事のために必要な情報と、個人的な病状の詳細を分けて考えることです。
上司・人事・同僚には、それぞれ何を伝えればいい?
職場といっても、上司、人事担当者、同僚では、それぞれ役割が異なります。全員に同じ内容を説明する必要はありません。
直属の上司には、仕事への影響と必要な調整を
上司は、業務の分担や勤務スケジュールを調整する立場にあります。そのため、定期的な通院が必要になること、休暇を取る可能性があること、体調によって難しくなる業務があることなどを伝えると、具体的な相談がしやすくなります。
病名を伝えるかどうかは状況によりますが、治療の内容や副作用について一定の情報を共有した方が、必要な配慮を理解してもらいやすい場合もあります。
人事・総務には、利用できる制度や手続きを確認する
休職制度、短時間勤務、時間単位の有給休暇、傷病手当金などについては、人事・総務が相談窓口になることが多いでしょう。会社によって利用できる制度や条件が違うため、まずは就業規則を確認し、必要な書類について尋ねてみましょう。
制度の利用にあたって診断書が必要になる場合もあります。どのような情報を提出する必要があるのか、誰がその情報を扱うのかも確認しておくと安心です。
同僚には、仕事に関係することだけでもよい
同僚への説明は、必ずしも病名まで伝える必要はありません。「通院のため、しばらく水曜日は早退します」「治療の都合で、当面は出張を控えることになりました」など、仕事に影響する範囲だけを共有する方法もあります。
もちろん、親しい同僚に病気のことを話したい場合は、本人の希望に応じて伝えてかまいません。
上司に相談するとき、どう切り出せばいい?
最初の報告では、病気についてすべて説明しようとしなくても大丈夫です。まずは、治療のために勤務の調整が必要になりそうなことを伝え、落ち着いて話せる時間を設けてもらうとよいでしょう。
例えば、病名を伝えずに相談を始めるなら、こんな言い方ができます。
「少しご相談したいことがあります。今後、治療のために定期的な通院が必要になりそうです。勤務について調整をお願いすることがあると思うので、一度お時間をいただけますか」
病名を伝える場合は、もう少し具体的に話してもよいでしょう。
「がんと診断され、来月から治療を始めることになりました。通院の頻度や仕事への影響はまだ分からない部分もありますが、今後の働き方について相談させてください」
直接話しにくい場合は、先にメールで相談の時間をお願いする方法もあります。
メールの文例
件名:今後の勤務についてのご相談
お疲れさまです。私事で恐縮ですが、治療のため、今後しばらく定期的な通院が必要になりました。
現在、治療の予定を確認しているところですが、勤務日程や担当業務について調整をお願いする可能性があります。今後の働き方についてご相談したいため、今週中に少しお時間をいただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
この段階で治療の予定がすべて決まっていなくても問題ありません。現時点で分かっていることを伝え、決まっていないことは後日共有する形でよいでしょう。
通院や副作用による勤務調整は、どう相談する?
がんの治療と仕事を両立するためには、通院の日程だけでなく、治療によってどのような影響が出る可能性があるかを考えておくことも役立ちます。
例えば、抗がん剤治療では、投与当日だけでなく、その後数日間に疲労感などが出る場合があります。ただし、副作用の種類や程度、現れる時期には個人差があり、実際に治療を始めてみないと分からないこともあります。
最初から長期間の勤務予定を決めるのが難しければ、まずは数週間単位で調整し、体調を見ながら見直す方法も考えられます。
職場との相談では、次のような点を整理しておくと話し合いやすくなります。
- 通院の頻度や、現時点で分かっている治療スケジュール
- 仕事を続けるうえで負担になりそうな業務
- 短時間勤務、時差出勤、在宅勤務など、希望する働き方
- 体調が変わった場合に、勤務予定を見直せるかどうか
- 休職や復職が必要になった場合の手続き
ただし、仕事の調整方法を患者本人だけで考え、すべて準備する必要はありません。どのような働き方が可能かは、上司や人事、必要に応じて産業医などと一緒に検討していくものです。
また、仕事への影響が心配な場合は、主治医に仕事内容を具体的に伝え、避けた方がよい作業や勤務時間について意見を聞くこともできます。
病名を同僚に知られたくない場合は?
「上司には話すけれど、同僚にはまだ知らせたくない」という人もいるでしょう。病気のことを知られると、必要以上に気を遣われたり、これまでと違う接し方をされたりするのではないかと心配になることもあります。
その場合は、上司や人事に病気のことを伝える際、誰に、どこまで共有してよいのかを明確にしておくことが大切です。
例えば、次のように伝えられます。
「病名については、今のところ同僚には知らせたくないと思っています。勤務調整が必要なことだけ共有していただけますか」
あるいは、同僚への説明内容を事前に相談しておく方法もあります。
「チームには、定期的な通院のため勤務時間を調整することだけ伝えていただけると助かります」
ただし、業務の安全確保や勤務上の配慮のために、必要な情報を関係者と共有しなければならない場合もあります。その場合も、どの情報を、誰に、何のために伝えるのかを確認しておきましょう。
本人の希望を伝えることは大切ですが、すべての情報を希望どおりに非公開にできるとは限りません。だからこそ、最初に情報共有の範囲を相談しておくことが役立ちます。
診断書には病名を書かなければいけない?
休職や復職、勤務上の配慮を受ける際には、会社から診断書や主治医の意見書を求められることがあります。
診断書に必要な内容は、提出する目的や会社の制度によって異なります。病名だけでなく、治療の予定、勤務への影響、休養が必要な期間などが重要になる場合もあります。
病名をできるだけ知られたくない場合は、まず人事担当者に、どのような書類が必要なのかを確認してみましょう。そのうえで、主治医に提出先や目的を伝え、記載内容について相談することができます。
ただし、手続きによっては病名などの記載が必要な場合もあり、必ず省略できるわけではありません。
厚生労働省では、患者の仕事内容を主治医に伝えるための「勤務情報提供書」や、治療と仕事の両立について主治医の意見を確認するための様式例を公開しています。こうした書類を活用すると、病名だけでなく、どのような働き方が可能なのかという点も含めて相談できます。
産業医には何を相談できる?
会社に産業医がいる場合は、治療と仕事の両立について相談することもできます。
産業医は、労働者の健康管理について専門的な立場から助言し、必要に応じて就業上の措置について会社に意見を述べる医師です。例えば、長時間勤務を避けた方がよいか、仕事内容の変更が必要か、復職後にどのような配慮が望ましいかといった点について、相談できます。
ただし、産業医は主治医とは役割が異なります。がんの治療方針を決めるのは主治医であり、産業医は主に職場で安全に働くための支援を担当します。
また、産業医に話した内容がすべてそのまま上司や人事に伝わるわけではありませんが、就業上必要な情報が会社に共有される場合はあります。相談前に、どのような情報が誰に共有されるのかを確認しておくとよいでしょう。
産業医がいない職場でも、がん相談支援センターや地域の産業保健に関する相談窓口などを利用できます。
2026年から、治療と仕事の両立支援は事業主の努力義務に
2026年4月から、治療と仕事の両立支援に必要な措置を講じることが、事業主の努力義務になりました。これに合わせて、厚生労働省は「治療と就業の両立支援指針」を公表しています。
この指針では、治療を受けながら働く人に対して、勤務時間への配慮だけでなく、健康状態や仕事を遂行する能力に応じた対応が必要であることが示されています。また、病気に関する個人情報の保護や、本人・主治医・会社などの連携についても定めています。
ただし、努力義務になったからといって、希望する働き方や勤務制度をすべての会社が必ず認めなければならないという意味ではありません。利用できる制度や具体的な対応は、職場の状況によって異なります。
それでも、治療と仕事の両立は、患者本人だけが工夫して乗り切るものではなく、会社も環境づくりに取り組むべき課題として位置づけられています。
職場への伝え方に迷ったら、相談できる場所もある
病名を伝えるべきか迷っている、休職を勧められたけれど仕事を続けたい、会社にどんな配慮をお願いできるのか分からない。そんなときは、がん相談支援センターに相談できます。
がん相談支援センターでは、治療と仕事の両立についても相談でき、必要に応じて社会保険労務士などの専門家につないでもらえる場合があります。両立支援コーディネーターが、本人・医療機関・会社の間で情報共有や調整を支援する仕組みもあります。
また、会社の対応や労働条件について疑問がある場合は、労働局の総合労働相談コーナーなどに相談する方法もあります。
キャンエビのまとめ
- がんと診断されたからといって、職場の全員に病名や病状を詳しく伝える必要はない
- 上司には勤務への影響、人事には制度や手続き、同僚には業務に関係する内容など、相手によって伝える情報を分けてよい
- 休職や復職、勤務上の配慮を受ける際には、診断書などの提出が必要になる場合がある
- 病名を同僚に知られたくない場合は、上司や人事に情報共有の範囲を事前に相談しておく
- 通院や副作用による勤務調整は、本人だけで抱えず、上司・人事・産業医などと相談しながら考えられる
- 2026年4月から治療と仕事の両立支援は事業主の努力義務となっており、がん相談支援センターなどでも相談できる








