がんについて検索していると、サプリメント、健康食品、健康機器、自由診療など、さまざまな商品やサービスの広告に出会います。中には数万円、数十万円、それ以上の費用がかかるものもあります。
もちろん、「高額だから怪しい」「自由診療だから信用できない」と決めつけることはできません。研究中の治療や、症状やQOLの改善を目的とした補完療法など、標準治療とは別の選択肢について検討すること自体が問題なのでもありません。
では、何を見ればいいのでしょうか。
実は、がん患者向けの商品やサービスには、繰り返し登場する「もっともらしく見せる言葉」があります。しかも厄介なのは、完全な嘘ではなく、事実の一部分を利用していることもあることです。
今回は、国立がん研究センター、厚生労働省eJIM、消費者庁などの資料をもとに、特に注意して見たい売り文句を整理します。
「有名な大学で研究されています」
これは、かなり注意して読みたい表現です。
国立がん研究センターも、健康食品やサプリメントの中には、安全性や効果が確認されていないにもかかわらず、「有名な大学が研究」などと宣伝して販売されているものがあるとして注意を促しています。
ただし、「大学で研究されている」という説明自体が嘘とは限りません。本当に大学でその成分について研究していることもあります。
問題は、「研究されている」と「その商品ががんに効くことが確認されている」はまったく違うことです。
たとえば、ある成分ががん細胞に与える影響を大学の研究室で調べていたとしても、それだけでは市販されている商品を人が摂取したときにがんが小さくなることを意味しません。細胞実験なのか、動物実験なのか、人を対象とした臨床試験なのかでも意味は大きく変わります。
「○○大学で研究」という言葉を見たら、大学名だけで安心するのではなく、「何を、誰に、どのような方法で研究したのか」まで確認することが大切です。
「医師も注目」「専門家が推奨」
白衣を着た医師の写真や、「○○博士推薦」「医師の○%がおすすめ」といった表示があると、急に信頼できる商品のように見えることがあります。
しかし、専門家が登場していることと、その商品の治療効果が臨床試験で確認されていることは別です。
消費者庁の健康食品広告に関する資料でも、医師や学者の談話、アンケート結果、学説などを使って商品の健康効果を暗示する広告が具体例として取り上げられています。
見るべきなのは「医師が言っているか」だけではありません。その医師は何を根拠に話しているのか、その商品そのものを評価した研究があるのか、研究と販売会社にどのような関係があるのか、といった点も重要です。
「誰が言ったか」は参考になりますが、「何を根拠に言ったか」の代わりにはなりません。
「マウスでがんが小さくなった」「がん細胞を死滅させた」
これも完全な作り話とは限らないからこそ、判断が難しい表現です。
実際、がん研究の初期段階では、培養したがん細胞や動物を使った研究が数多く行われています。消費者庁の資料にも、「発がん性物質を与えたマウスに成分を与えたところ……」といった研究結果を広告に利用する例が示されています。
しかし、細胞に直接高濃度の物質を加える実験と、人がその成分を飲むことは同じではありません。マウスで有望だった物質が、人を対象とした臨床試験では期待した効果を示さないこともあります。
ここで確認したいのは、「研究があるか」だけではなく「研究がどこまで進んでいるか」です。
細胞実験なのか。動物実験なのか。人を対象とした研究なのか。人を対象としているなら、何人を対象に、何と比較したのか。
「がん細胞が死んだ」という強い言葉だけを切り取らず、その一段後ろを見る必要があります。
「末期がんから回復」「余命○か月と言われた人が」
患者の体験談は、とても強い説得力を持ちます。
研究結果の数字より、「余命を宣告された○○さんが元気になった」という一人の話の方が心に残ることもあります。特に、自分や家族が厳しい状況に置かれているときなら、なおさらです。
しかし、その人が本当に同じ病状だったのか、その商品以外にどんな治療を受けていたのか、診断や経過が客観的に確認されているのかは、広告だけでは分からないことがあります。
消費者庁は、実際には薬物療法や食事療法などを併用しているにもかかわらず、それを明示せず、健康食品だけで効果が得られたように見せる体験談や、都合のよい体験談だけを選んで誰にでも同じ効果が期待できるように見せる表示について注意を示しています。
さらに、「個人の感想です」「効果を保証するものではありません」という小さな注意書きがあれば、どんな広告表現でも問題がなくなるわけではありません。
体験談は、その人の経験として読むことはできます。しかし、一人の体験談から「自分にも同じ効果がある」と判断することはできません。
「免疫力を高める」「自然治癒力を引き出す」
「がんを治す」と直接書かず、「免疫力」「体質」「自然治癒力」「本来持っている力」といった言葉を使う広告もあります。
こうした言葉を見るときに確認したいのは、具体的に何が変化することを指しているのかです。
「免疫力」という一つの数値があり、それを上げればがんへの抵抗力も一緒に上がる、というほど人間の免疫系は単純ではありません。「免疫に関係する何らかの数値が変化した」ことと、「がん患者の再発が減った」「生存期間が延びた」ことも同じではありません。
説明が抽象的なまま、「免疫」「体質」「デトックス」などの言葉だけが繰り返されている場合は、「具体的に何を測定し、患者にどんな利益が確認されたのか」を見てみましょう。
「天然だから安心」「薬ではないから副作用がない」
「天然」「自然由来」「昔から使われている」という言葉にも安心感があります。
しかし、自然由来であることは安全性の証明ではありません。厚生労働省eJIMも、「自然」や「天然」という言葉が必ずしも安全を意味するわけではなく、補完代替療法にも健康被害のリスクがあると注意しています。
健康食品やサプリメントの中には、薬との相互作用が問題になるものもあります。国立がん研究センターも、民間療法によってがん治療の効果が弱くなったり、予期しない副作用が生じたりする可能性を説明しています。
「薬ではないから安全」ではなく、治療中だからこそ、サプリメントや健康食品についても主治医や薬剤師に伝えることが大切です。
「病院では教えてくれない」「標準治療だけでは不十分」
ここは、特に慎重になりたいところです。
医療にも限界はありますし、標準治療ですべての人のがんが治るわけではありません。医師によって説明の仕方が違ったり、患者が十分な情報を得られなかったと感じたりすることもあるでしょう。
だからこそ、「病院では教えてくれない治療があります」という言葉には引きつけられます。
しかし、標準治療への不信と、その商品の有効性は別の問題です。
病院の治療に不満があることは、別の商品に効果があることの証明にはなりません。厚生労働省eJIMも、標準治療を否定するような補完代替療法では、標準治療を受ける機会を失うことで深刻な健康問題につながる可能性があると注意しています。
「標準治療では助からない人もいる」という事実を示されても、そこで一度立ち止まってください。
「では、その商品の方が効果があることを示す証拠は何ですか?」
これは分けて確認する必要があります。
「海外ではすでに使われています」
海外の大学、海外の医師、海外の医療機関などが登場する広告もあります。
しかし、「海外で使われている」という言葉だけでは、その国で何として使われているのかが分かりません。医薬品として承認されているのか、臨床試験中なのか、補完療法として提供されているだけなのか、健康食品として販売されているのかでは意味がまったく違います。
消費者庁の資料でも、「○○国では医薬品として販売」「外国政府機関が認めた」など、海外での位置づけや公的機関のお墨付きを想起させる表現が広告上の健康効果を暗示する例として取り上げられています。
「海外では」という言葉を見たら、国名・制度・承認された用途まで確認するのがポイントです。
「特許取得」「独自製法」「○○研究所と共同開発」
特許という言葉も、効果の証明のように見えやすいものです。
しかし、特許は基本的に発明や技術についての権利であり、「特許がある=がん患者への治療効果が臨床試験で確認された」という意味ではありません。
独自製法や共同開発も同様です。その技術が珍しいことと、その商品を使った患者の治療成績が良くなることは別に確認する必要があります。
「技術として新しいのか」と「患者に効果があるのか」を分けて考えてみましょう。
「今始めないと」「あなたには時間がない」
がん患者にとって、時間は非常に大切です。
だからこそ、「今すぐ始めるべき」「手遅れになる前に」「今なら間に合う」と急かされると、冷静に比較する時間を失いやすくなります。
しかし、高額な商品やサービスの契約を急かされた場合には、「今日決めなければ医学的に何が変わるのか」を確認してみる価値があります。
その場で契約せず、主治医や家族、がん相談支援センターなど、商品を販売していない第三者に相談する時間を取ることもできます。
一番見抜きにくいのは「全部嘘」ではない広告
ここまで見てくると、注意したい広告には共通点があります。
それは、必ずしも最初から最後まで嘘でできているわけではないことです。
「大学で研究されている」ことは本当かもしれません。「マウスで効果があった」ことも本当かもしれません。「医師が研究している」「海外で臨床試験が行われている」「実際に元気になった人がいる」という部分も、事実である可能性があります。
問題は、その事実から、
「だから、この商品を買えばあなたのがんにも効く」
までの間に、根拠のない飛躍がないかどうかです。
これは以前キャンエビで検証した「重曹」や「高用量ビタミンC」の話ともよく似ています。ある成分について本物の研究が存在することと、SNSや広告で紹介されている使い方に効果があることは同じではありません。
完全な作り話より、本当の研究、本当の肩書、本当の体験を一部分だけ使った説明の方が、かえって見分けにくいのです。
値段が高いほど効くわけではない
そして、価格も効果の証拠にはなりません。
消費者庁は健康食品について、はっきりと「高価な製品ほど効果があるとは限りません」と案内しています。厚生労働省eJIMも、補完代替療法を考える際には健康被害だけでなく経済被害にも注意し、「治療費が高額だからといって、必ずしも効果が高いわけではない」としています。
一方で、高額であることだけを理由に悪質と判断することもできません。高度な医療技術や検査など、実際に費用がかかる医療もあります。
見るべきなのは値段そのものより、その金額に見合う効果を示す根拠があるのか、費用の説明が明確なのか、途中で追加費用が発生するのか、解約条件がどうなっているのかです。
迷ったら「その商品を売っていない人」に意見を聞いてみる
高額な商品や治療を検討するとき、一つ覚えておきたい方法があります。
その商品を販売していない人にも相談することです。
販売する側は、その商品について詳しいかもしれません。しかし同時に、購入してもらうことで利益を得る立場でもあります。
主治医や薬剤師に成分や治療との相互作用について聞く。がん相談支援センターで相談する。契約や勧誘方法に不安があれば、消費生活センターなどに相談する。こうした第三者を一人入れるだけでも、情報を別の角度から見ることができます。
そして、販売者に質問するなら、「効きますか?」だけではなく、「私と同じがんの患者を対象にした比較試験はありますか?」「標準治療と比べて、生存期間や再発率はどうでしたか?」「この商品そのものを使った研究ですか?」「効果がなかった人のデータもありますか?」と聞いてみると、根拠の中身が見えやすくなります。
キャンエビのまとめ
- 「大学で研究」「医師が注目」「海外で使用」だけでは、がんへの効果が証明されたことにはなりません。
- 細胞・マウスでの研究と、人のがん患者で効果が確認されることは別です。
- 体験談では、その商品以外に受けていた治療や、うまくいかなかった人の情報が見えないことがあります。
- 「天然」「自然由来」であっても、安全とは限りません。
- 標準治療への不安や不満と、別の商品に効果があるかどうかは分けて考えましょう。
- 特許、独自製法、共同研究なども、それだけでは患者への治療効果を証明しません。
- 高額だから効果が高いわけでも、高額だから悪質と決まるわけでもありません。
- 急いで契約するよう求められたら、一度その商品を販売していない第三者にも相談してみましょう。
怪しい情報を見抜くとき、「全部嘘かどうか」を探す必要はありません。
むしろ見るべきなのは、「ここまでは事実。でも、ここから先は本当に証明されている?」という境目です。
がんになったとき、少しでも可能性があるものを試したいと思うこと自体は不思議なことではありません。だからこそ、その気持ちを利用されないために、「何を言っているか」だけでなく「その結論まで、どんな根拠でつないでいるか」を見てみることが大切です。
参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと民間療法(健康食品・サプリメント・食事療法を中心に)」(公的情報、民間療法・健康食品の効果、安全性、広告情報の見極めについて)
- 厚生労働省 eJIM「健康・医療情報の見極め方・向き合い方」(公的情報、体験談・権威者の意見・動物実験など、健康情報を評価するときのポイント)
- 消費者庁「健康食品(一般の方向け)」(公的情報、健康食品の利用時に確認したいポイント)
- 消費者庁「健康増進法(誇大表示の禁止)」(公的情報、健康食品の虚偽・誇大表示に関する制度・ガイドライン)
- 厚生労働省 eJIM「冊子・資料」(公的資料。「がんの補完代替医療ガイドブック[第3版]」などを掲載)








