「自然療法だけで治した」「抗がん剤を受けない方が長生きできる」。SNSや動画で、こうした体験談や主張を目にすることがあります。治療の副作用が心配なときや、標準治療だけでは不安を感じているときには、魅力的に聞こえるかもしれません。
では、実際の患者データではどうだったのでしょうか。米国の観察研究では、治癒を目指せる一部のがんで、標準治療を受けず代替療法を選んだ患者群は、標準治療群より生存率が低い傾向を示しました。
ただし、この研究から「すべての代替療法が直接、死亡を増やす」と結論づけることはできません。数字の意味と研究の限界を分けて見ていきます。
今回の検証で分かったこと
非転移性の乳がん・前立腺がん・肺がん・大腸がんを対象とした研究では、標準的ながん治療を受けず代替療法を選択した群の5年生存率は54.7%、標準治療群は78.3%でした。
一方、この研究は観察研究です。個々の代替療法そのものが死亡の直接原因だったと証明したものではありません。
まず「代替療法」と「補完療法」を分けて考えよう
代替療法と補完療法は、まとめて「補完代替医療(CAM)」と呼ばれることがあります。しかし、がん治療との関係を考えるうえでは、この2つを分けることが重要です。
米国国立がん研究所(NCI)は、標準的な治療の代わりに用いるものを「代替医療(Alternative medicine)」、標準的な治療とともに用いるものを「補完医療(Complementary medicine)」と説明しています。
| 使い方 | 本記事での呼び方 | 例 |
|---|---|---|
| 標準治療の代わりに用いる | 代替療法 | 標準治療を受けず、特定の食事法などでがんを治そうとする |
| 標準治療とともに用いる | 補完療法 | 標準治療を受けながら、症状緩和などを目的に鍼灸などを取り入れる |
つまり、「何を使うか」だけで代替療法と補完療法が決まるわけではありません。
たとえば同じ食事法や鍼灸などでも、標準治療と併用するのか、標準治療の代わりに「がんを治す方法」として使うのかによって位置づけが変わります。
今回紹介する研究で問題になっているのは、主に後者――標準治療を受けず、その代わりとして代替療法を選択したケースです。
代表的研究では、5年生存率 代替療法群=54.7% 対 標準治療群=78.3%
2018年にJournal of the National Cancer Instituteに掲載された研究では、米国のNational Cancer Database(NCDB)を使い、2004年から2013年に診断された非転移性の乳がん、前立腺がん、肺がん、大腸がんの患者を調べました。
「代替療法群」は、未証明の治療を選び、手術、化学療法、放射線治療、ホルモン療法を受けなかった280人です。年齢、がん種、病期などが近い標準治療群560人と比較しました。
研究の主要結果
5年生存率は、代替療法群54.7%に対し、標準治療群78.3%。背景要因を調整した死亡ハザード比は2.50(95%信頼区間1.88-3.27)でした。
ハザード比2.50は、一人ひとりの死亡確率が必ず2.5倍になるという意味ではありません。追跡中の死亡の起こりやすさを群同士で比べた指標です。また、特定のサプリメントや食事法の毒性ではなく、「標準治療を受けず代替療法だけを選んだ群」の経過を示した数字です。
非転移性の乳がん・前立腺がん・肺がん・大腸がん。Johnson et al., JNCI, 2018
乳がん・肺がん・大腸がんでは差、前立腺がんでは有意差なし
同じ研究でがん種別に分析すると、代替療法群の調整後死亡ハザード比は、乳がん5.68、肺がん2.17、大腸がん4.57でした。一方、前立腺がんは1.68でしたが、95%信頼区間は0.68–4.17で、統計学的に明確な差とはいえませんでした。
低リスクの限局性前立腺がんでは、検査を続けながら経過を見る「監視療法」が標準的な選択肢になることがあります。そのため、「積極的な治療を受けていない」という事実が持つ意味は、がん種や病期、がんの性質によって異なります。
また、この研究は診断時に転移のない患者を対象としています。転移があるがんに、この研究の生存率やハザード比をそのまま当てはめることはできません。
2026年の乳がん研究でも、CAM単独群の死亡リスクは高かった
さらに2026年には、2011年から2021年に米国のNational Cancer Database(NCDB)へ登録された女性乳がん患者約216万人を解析した研究が、JAMA Network Openに発表されました。
この研究では、患者を「標準治療のみ」「CAMのみ」「標準治療+CAM」「無治療」の4群に分けて生存率を比較しています。
ここで注意したいのが、この研究で使われている「CAM」は、補完療法と代替療法を個別に分類したものではないということです。NCDBでは、非医療従事者によって行われた補完・代替的な治療をCAMとして記録しており、具体的にどのような療法を受けたのかは分かりません。
標準治療のみの群を基準にすると、CAMのみの群では調整後死亡ハザード比が3.67(95%信頼区間3.03–4.44)、無治療群では3.53(3.48–3.58)でした。標準治療+CAM群でも1.45(1.22–1.72)でした。
5年全生存率(未調整)は、標準治療のみ85.4%、標準治療+CAM 81.2%、CAMのみ60.1%、無治療47.8%でした。
ただし、CAMのみの群は273人、標準治療+CAM群も568人と、約216万人の解析対象の中ではごく少数です。また、CAMの具体的な種類や内容も記録されていません。
さらに研究者が治療内容を調べると、標準治療+CAM群では、標準治療のみの群と比べて、一部の病期で放射線治療などを受ける割合が低いことがわかりました。したがって、標準治療+CAM群の死亡率が高かったことを、「補完療法を併用したこと自体が死亡率を上げた」と解釈することはできません。
標準治療の拒否・遅延を考慮すると、死亡との関連は明確ではなくなった
この点を考えるうえで参考になるのが、2018年に『JAMA Oncology』に掲載された別の研究です。
この研究では、非転移性の乳がん、前立腺がん、肺がん、大腸がんの患者を対象に、標準治療を少なくとも一つ受けながら補完療法も利用した患者と、補完療法を利用しなかった患者を比較しました。
研究で注目されたのは、補完療法を利用した患者では、その後に推奨された標準治療を受けないケースが多かったことです。
以下は、それぞれの治療を受けることを推奨された患者のうち、その治療を拒否した割合です。
| 推奨された標準治療 | 補完療法利用群で拒否 | 補完療法非利用群で拒否 |
|---|---|---|
| 手術 | 7.0% | 0.1% |
| 化学療法 | 34.1% | 3.2% |
| 放射線治療 | 53.0% | 2.3% |
| ホルモン療法 | 33.7% | 2.8% |
たとえば、放射線治療を受けることを推奨された患者のうち、補完療法利用群では53.0%が放射線治療を拒否していたのに対し、補完療法非利用群では2.3%でした。
では、生存率の差は「補完療法を利用したこと」と「推奨された標準治療を受けなかったこと」のどちらと関係していたのでしょうか。
標準治療の拒否や開始の遅れを考慮しない分析では、補完療法利用群の死亡ハザード比は2.08でした。
しかし、標準治療の拒否・遅延を分析に加えると、死亡ハザード比は**1.39(95%信頼区間0.83–2.33)**となり、補完療法の利用と死亡との関連は統計学的に明確ではなくなりました。
この研究から何が言える?
この結果から、「補完療法を利用したこと自体が死亡率を上げた」と結論づけることはできません。
この研究では、補完療法を利用した患者ほど、推奨された標準治療の一部を拒否したり、治療開始が遅れたりする傾向がみられました。そして、それらを考慮すると、補完療法の利用と死亡との統計学的な関連は明確ではなくなりました。
ただし、これは観察研究です。補完療法の利用が標準治療の拒否を引き起こしたことや、標準治療の拒否・遅延だけが生存率の差を生んだことまで証明したわけではありません。
ここで重要なのは、補完療法を利用しているかどうかだけを見るのではなく、それによって推奨されている標準治療が置き換えられたり、遅れたりしていないかも分けて考えることです。
慎重な読み方
治癒を目指せる一部のがんで、標準治療を代替療法に置き換えた患者群は、死亡リスクが高い関連を示しました。ただし、個々の代替療法が直接死亡を引き起こしたと証明した研究ではありません。
では、補完療法も使わない方がいい?
ここまで紹介した研究は、標準治療と併用しながら、症状や生活の質(QOL)を支える目的で補完療法を利用することまで否定するものではありません。
鍼灸、マッサージ、ヨガ、瞑想などの中には、対象となる患者や方法によって、痛み、不安、疲労などの症状を和らげる目的で研究されているものがあります。
ただし、ここで重要なのは、「症状を和らげる効果」と「がんそのものを治療する効果」は別だということです。
たとえば、ある方法によって治療中の痛みや不安が軽減されたという研究があったとしても、それだけで「がんが縮小する」「再発を防ぐ」「生存期間を延ばす」とはいえません。
補完療法を取り入れるときには、次のような点を確認しておくことが大切です。
- 標準治療の代わりではなく、併用するものになっているか
- 何を目的に使うのか――がんそのものへの効果なのか、症状やQOLの改善なのか
- その目的について、人を対象とした研究があるか
- 安全性や、現在受けている治療との相互作用に問題がないか
- サプリメント、生薬、民間療法などを利用している場合、主治医や薬剤師に伝えているか
「自然なものだから安全」とは限りません。サプリメントや生薬などの中には、薬の作用や代謝に影響し、がん治療に影響を与える可能性があるものもあります。
また、その方法自体の副作用が少なかったとしても、効果が確認されている標準治療の代わりに使うことで、必要な治療が遅れたり、受ける機会を逃したりすることは別のリスクです。
補完療法について考えるときは、「使ってよい・悪い」と一括りにするのではなく、何のために使うのか、その目的についてどこまでエビデンスがあるのか、標準治療に影響しないかを一つずつ確認することが大切です。あります。また、直接の副作用が少なくても、効果の確立した治療を受ける時期を逃すことが、大きな不利益になる場合があります。
キャンエビのまとめ
この記事から押さえておきたい3つのこと
1)標準治療を受けず、代替療法やCAMを選択した患者群では、生存率が低い関連を示した研究があります。
ただし、今回紹介した研究は観察研究であり、個々の代替療法そのものが死亡の直接的な原因だったと証明したものではありません。
2)補完療法を利用した患者では、推奨された標準治療を拒否したり、開始が遅れたりする傾向も報告されています。
標準治療の拒否・遅延を考慮すると、補完療法の利用と死亡との統計学的な関連が明確ではなくなった研究もあります。そのため、補完療法そのものの影響と、標準治療を受けなかった影響を分けて考える必要があります。
3)「代替療法」と「補完療法」は、同じものではありません。
標準治療の代わりに用いるのが代替療法、標準治療とともに用いるのが補完療法です。同じ方法でも、何を目的に、どのように使うかによって位置づけは変わります。
代替療法についての情報を見るときには、「効いた人がいる」という体験談だけでなく、標準治療を受けた人と比べて生存や再発はどうだったのか、どのがん種・病期を対象にした研究なのかまで確認することが大切です。
一方、補完療法については、「がんに効くか」だけでなく、痛みや疲労、不安など、何を改善するためのものなのかを確認すると、研究結果をより正確に理解できます。
そして何かを取り入れるときには、それが標準治療を置き換えるものなのか、標準治療を受けながら生活や症状を支えるために補うものなのかを区別することが重要です。
治療を断る、遅らせる、中断するといった判断をする前には、期待できる利益と不利益、ほかの標準治療の選択肢、副作用を軽減する方法などについて、主治医や医療スタッフと確認してください。
参考文献・資料
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1):121-124. PMID: 28922780. DOI: 10.1093/jnci/djx145.
- Ayoade OF, Caturegli G, Canavan ME, et al. Use of Complementary and Alternative Medicine in the Management of Breast Cancer. JAMA Netw Open. 2026;9(3):e260337. PMID: 41770560. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2026.0337.
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Complementary Medicine, Refusal of Conventional Cancer Therapy, and Survival Among Patients With Curable Cancers. JAMA Oncol. 2018;4(10):1375-1381. PMID: 30027204. DOI: 10.1001/jamaoncol.2018.2487.
- Joseph K, Vrouwe S, Kamruzzaman A, et al. Outcome analysis of breast cancer patients who declined evidence-based treatment. World J Surg Oncol. 2012;10:118. PMID: 22734852. DOI: 10.1186/1477-7819-10-118.
- National Cancer Institute. Complementary and Alternative Medicine (CAM). https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/cam
ご注意
この記事は一般的な医療情報を提供するもので、個別の診断や治療を指示するものではありません。治療の開始・中断・変更、補完療法やサプリメントの使用については、担当医・薬剤師などの医療専門職へ相談してください。








