米国や英国などの公的機関や診療ガイドラインは、科学的根拠が確立していない代替療法を、がんの標準治療の代わりに用いることを推奨していません。
一方、標準治療と併用する補完療法や伝統医療が、症状や副作用の軽減、生活の質の向上を目的として、医療機関で提供されることはあります。しかし、提供されていることと、がんそのものを治療する標準治療として認められていることは別です。
この研究で分かったこと
「海外では代替療法が、がんの標準治療として認められている」という主張は、少なくとも米国・英国・ドイツなどの公的資料や診療ガイドラインからは確認できません。
安全性と有効性が確認された補完的な方法が、標準治療を支える目的で取り入れられることはありますが、標準治療の代わりに使うことが認められたわけではありません。
まず用語を区別します
標準治療とは、研究によって有効性と安全性が検討され、専門家に適切と認められ、広く行われている治療です。目的には、根治だけでなく、再発予防、病気の進行抑制、延命、症状緩和なども含まれます。
補完療法は、標準治療と併用する方法です。例えば、鍼灸が治療に伴う痛みや吐き気の軽減を目的として使われることがあります。
代替療法は、標準治療の代わりに用いる方法です。多くはがんを治療する効果が十分に確認されておらず、標準治療を受ける機会を失う危険があります。
統合医療は、通常の医療に、安全性と有効性について根拠のある補完的な方法を組み合わせる考え方です。
伝統医療は、中医学やアーユルヴェーダなど、各地域の歴史や文化に根差した医療です。国の制度に組み込まれていても、それだけでがんに対する効果が科学的に証明されたことにはなりません。
ここが要点
「医療機関で提供されている」「国の制度に含まれている」だけでは、がんの標準治療として認められている証拠にはなりません。
なお、ある療法の有効性と安全性が十分に確認され、標準的な医療に組み込まれれば、その用途ではもはや単なる「代替療法」とは扱われません。ここも誤解されやすいポイントです。
「認められている」とは、何を意味するのか?
「認められている」という言葉には、いくつかの異なる意味があります。
- 医薬品や医療機器として規制当局の承認を受けている
- 診療ガイドラインで推奨されている
- 医療機関でサービスとして提供されている
- 公的保険の対象や国の制度に含まれている
医療機関で提供されていることや、公的保険・国の制度に含まれていることが、そのまま「がんへの効果が科学的に証明され、標準治療として推奨されている」ことを意味するわけではありません。
ここが要点
「誰が、何を、どの目的で認めているのか」を分けて確認する必要があります。
米国の実情:補完療法と代替療法は区別されている
米国国立がん研究所(NCI)は、標準治療と一緒に使うものを「補完療法」、標準治療の代わりに使うものを「代替療法」と区別しています。
また、米国食品医薬品局(FDA)は、「がんを治す」などと宣伝して販売される未承認製品について、警告を行っています。米国の公的資料を確認する限り、科学的根拠の確立していない代替療法を、標準治療の代わりとして推奨する位置づけは確認できません。
観察研究では、治療可能な一部のがんで、標準治療を受けずに代替療法を選んだ人は、通常の治療を受けた人より生存率が低かったことも報告されています。ただし観察研究であるため、代替療法だけが死亡率の差を生んだと断定はできません。
英国・ドイツの実情:補完療法は個別に評価されている
英国では、標準的な医療と併用する補完療法が、一部の症状に対して提供される場合があります。ただし、NHSは補完療法のすべてに十分な有効性の根拠があるわけではないことや、処方された治療を自己判断で中止しないよう案内しています。
ドイツには、がん患者に対する補完医療のS3ガイドラインがあります。このガイドラインでは、さまざまな補完療法について、目的やエビデンス、安全性を個別に評価しています。
これは補完療法全体を「がんを治す標準治療」として認めているという意味ではありません。標準治療との併用や症状への効果が検討されているものと、推奨できないものを分けて扱っています。
中国・インドでは伝統医療が制度化されている
中国では、中医学が法律に基づく医療制度として整備され、医療機関、医師資格、教育、研究などの枠組みが設けられています。国の中医薬発展計画には、がんに対する「中西医結合」の取り組みも盛り込まれています。ただし、これは中医学だけで標準的ながん治療を置き換えることを意味するものではありません。
インドではアーユルヴェーダなどの伝統医療が、国の制度の中に位置づけられています。医療提供だけでなく、研究や教育を担う仕組みもあります。
しかし、伝統医療が制度化されていることと、個々の療法ががんに有効だと科学的に証明されていることは別です。がん治療としての評価は、療法ごと、目的ごとに臨床試験や診療ガイドラインを確認する必要があります。
なお、インドの「AYUSH」は、アーユルヴェーダなど複数の伝統医療を所管する制度・省庁の名称で、特定の治療法を指す言葉ではありません。
補完療法の効果と「がんを治す効果」は別
鍼灸やマッサージなどの一部には、特定の症状や治療に伴うつらさを軽減する目的で推奨されるものがあります。ただし、効果の有無は療法や症状によって異なり、補完療法全体が有効という意味ではありません。
また、運動療法や認知行動療法、心理的支援は、現在では通常のがん医療や支持療法の一部として行われることもあります。
一方、ハーブ、サプリメント、特殊な食事、ホメオパシーなどについて、がんを縮小・治癒させる効果は一般に確立していません。これらを標準治療の代わりに用いると、必要な治療の開始が遅れるほか、薬との相互作用が生じる可能性もあります。
観察研究では、標準治療を受けず代替療法を選んだ一部のがん患者で、生存率が低かったことが報告されています。ただし、この研究だけで個々の代替療法と死亡との因果関係まで断定することはできません。
補完療法を検討するときに確認したいこと
補完療法を検討するときは、まず何を目的に使うのかを確認します。がんそのものへの効果を期待するのか、痛みや吐き気、不安などを和らげたいのかによって、評価すべき根拠が異なります。
次の点を、主治医や薬剤師に確認してください。
- 期待できる効果は何か
- 安全性を確認した研究があるか
- 抗がん剤などとの相互作用がないか
- 標準治療の開始や継続を妨げないか
- 費用に見合う根拠があるか
特にハーブやサプリメントは薬に影響する場合があるため、使用前に商品名や成分を医療者へ伝えることが大切です。
キャンエビのまとめ
- 米国・英国・ドイツなどで、科学的根拠の確立していない代替療法を、がんの標準治療の代わりとして推奨する公的な位置づけは確認できません。
- 補完療法や伝統医療が制度化・提供されていても、それだけでがんへの効果が証明されたことにはなりません。
- 一部の補完的な方法は症状の軽減に役立つ可能性がありますが、効果と安全性は療法ごとに異なります。
- 標準治療を受けず代替療法だけを選ぶと、必要な治療が遅れる危険があります。
参考文献
- Traditional, Complementary and Integrative Medicine(公的資料)
- Complementary and Alternative Medicine (CAM) – National Cancer Institute (NCI)(研究機関の公式発表)
- Complementary therapies — NHS(公的資料)
- Improving Supportive and Palliative Care for Adults with Cancer (NICE guideline CSG4)(診療指針)
- Illegally Sold Cancer Treatments (FDA consumer warning page)(公的資料)
- Complementary and Alternative Medicine — Cancer Research UK (patient information)(研究機関の公式発表)
- S3 Guideline Complementary Medicine in the Treatment of Oncological Patients (Langversion) — Leitlinienprogramm Onkologie (Germany)(診療指針)
- Alternative Medicine for Cancer Treatment Raises Mortality Risk (NCI Cancer Currents blog summarising research)(研究機関の公式発表、2017-09-12)
- AYUSH — Ministry of AYUSH: Integrative Oncology initiatives, MoUs, and programs(公的資料)
- 国务院办公厅印发《“十四五”中医药发展规划》(第14次5カ年中医薬発展計画)(中国・国家中医薬管理局、公的資料、2022-03-29)
ご注意
この記事は公的機関や主要ガイドラインの公開情報に基づく解説です。個別の治療判断については担当の医師・がん専門医とご相談ください。治療の中断や自己判断での代替療法単独使用は重大なリスクを伴いますのでお勧めしません。








