医師から「余命は○か月くらいです」「○年程度かもしれません」と言われたら、その数字が頭から離れなくなるかもしれません。
「3か月と言われたら、本当に3か月後までしか生きられないの?」「予想より長く生きる人がいるのはなぜ?」
結論からいうと、医師から伝えられる「余命」は、人生の期限を示すものではありません。 その時点で分かっている病状や全身状態、これまでの経過などから考えた「今後の見通し」です。そのため、実際の経過が予測より長くなることも、短くなることもあります。
「余命」はどうやって予測しているの?
医師が余命の見通しを考えるときは、がんの種類や広がり、現在の病状、全身状態、これまでの治療とその反応など、さまざまな情報を総合して判断します。過去の患者さんのデータや、医師自身の臨床経験、場合によっては予後予測のための指標やモデルが参考にされることもあります。
ただし、そこで分かるのはあくまで「現在の情報から考えられる見通し」です。この先、その人の病気がどのように進むのか、治療にどの程度反応するのか、どんな変化が起こるのかまで正確に予測することはできません。
つまり、「余命3か月」と言われたとしても、3か月後の日付が人生の締切日として決まったわけではないのです。
実際、医師の余命予測はどのくらい当たる?
医師による生存期間の予測については、これまでさまざまな研究が行われています。そして、経験のある医師でも「あとどのくらい生きるのか」を正確に予測するのは難しいことが分かっています。
日本の進行がん患者2,036人を対象にした研究では、医師の予測が一定範囲内で実際の生存期間に近かったのは35%でした。実際より長く見積もったケースは45%、短く見積もったケースは20%でした。
この研究では、医師の予測が実際の生存期間のおよそ3分の2〜1.3倍の範囲に入った場合を「正確」としています。つまり、経験のある医師にも「正確な残り時間」を予測することは難しいのです。
ほかの研究をまとめたレビューでも、医師による予測と実際の生存期間にはずれがあり、実際より長めに予測する傾向が多く報告されています。
ただし、この研究は局所進行または転移がんで、緩和ケアサービスを利用していた患者さんを対象としたものです。化学療法中の患者さんも含まれていますが、「すべてのがん患者で余命予測が35%しか当たらない」という意味ではありません。
それでも、もし「余命○か月」と言われて、その数字が頭から離れなくなっているなら、知っておいてほしいことがあります。その数字は、医師にも正確には分からない未来について、その時点で分かっている情報から考えた「見通し」です。
「35%しか当たらないから医師の話を信用しなくていい」ということではありません。でも、「○か月と言われたから、○か月後までしか生きられない」と決めつける必要もありません。
なぜ予測から外れるの?
大きな理由の一つは、がんの経過には大きな個人差があることです。
同じ種類・同じステージのがんでも、その後の経過がまったく同じになるわけではありません。治療が予想以上によく効くこともあれば、思ったほど効かないこともあります。病状がしばらく安定することもあれば、感染症や合併症などによって急に状態が変わることもあります。
予後を予測した時点では、その後に起こることをすべて知ることはできません。だから、余命は「一度予測したら確定する数字」ではなく、その時点での情報をもとにした予測なのです。
一度言われた余命は、その後も変わらない?
変わることがあります。
治療を始めて予想以上に効果が出た、病状が長期間安定した、逆に病気が進行した、全身状態が大きく変わった――そうした新しい情報が加われば、今後の見通しも変わります。
終末期の医療についてのNICE(英国国立医療技術評価機構)のガイドラインでも、人の状態は悪化するだけではなく、安定したり一時的に改善したりすることがあり、予後には不確実性があることを前提として評価や説明を行うよう求めています。
つまり余命は、最初に言われた数字がずっと固定されるものではありません。病状が変われば、見通しも更新されていきます。
それなら、余命を聞く意味はないの?
「当たらないことがあるなら、余命なんて聞いても意味がないのでは?」と思うかもしれません。でも、そういうわけでもありません。
正確な期限ではなくても、おおよその見通しを知ることは、これからの治療について考えたり、療養する場所を考えたり、自分が大切にしたいことの優先順位を考えたりする材料になります。
大切なのは、余命を「あと○か月しかない」という確定したカウントダウンではなく、「現時点ではこのくらいの見通しと考えられている」と捉えることです。
もし数字だけが頭に残ってしまったら、担当医に「この余命は、どのくらい幅をもって考えればいいですか?」と聞いてみてもよいでしょう。「○か月」という一つの数字より、「数週間から数か月」「半年より長い可能性もある」など、幅を含めて説明してもらった方が理解しやすいこともあります。
「余命○か月」は、人生の締切日ではない
余命を伝えられたとき、その数字を気にしないでいるのは難しいと思います。カレンダーを見ながら「あと○か月」と数えてしまう人もいるかもしれません。
でも、「余命3か月と言われた」ことと、「3か月後に人生が終わる」ことは同じではありません。
余命は、その時点で分かっている情報から考えた見通しです。実際の経過がそれより長くなることも、短くなることもあります。
数字を無視する必要はありません。でも、その数字を人生のカレンダーの締切日に変える必要もありません。
キャンエビのまとめ
- 医師が伝える「余命」は、死亡する日を予言したものではなく、その時点での病状などから考えた見通しです。
- 進行がん患者を対象にした研究では、医師による生存期間の予測と実際の経過がずれることは珍しくなく、実際より長めに予測する傾向も報告されています。
- がんの経過や治療への反応には個人差があり、予測した時点ではその後の変化をすべて知ることはできません。
- 病状や治療への反応が変われば、余命の見通しも変わることがあります。
- 余命は「人生の締切日」ではなく、治療やこれからの生活について考えるための一つの目安として捉えることができます。
「余命○か月」という数字だけで、自分の未来すべてが決まったと考える必要はありません。分からないことや数字の幅については、担当医と確認しながら考えていきましょう。
参考文献
- Cheon S, et al. The accuracy of clinicians’ predictions of survival in advanced cancer: a review. Ann Palliat Med. 2016;5(1):22-29.
- NICE. Care of dying adults in the last days of life (NG31). National Institute for Health and Care Excellence.
- The Accuracy of Physicians’ Clinical Predictions of Survival in Patients With Advanced Cancer








