もし100年前の1926年に、がんになったら。どんな検査を受け、どんな治療を受けていたのでしょうか。
CTもMRIもありません。現在のような抗がん剤もありません。でも、がん治療そのものがなかったわけではありません。手術はすでに行われていましたし、意外なことに、X線やラジウムを使った放射線治療も始まっていました。
100年前の病院を、少しのぞいてみましょう。
がんはどうやって見つけていた?
1920年代の診察で大きな役割を果たしたのは、医師の目と手でした。症状を聞き、患部を見て、触って、しこりの大きさや硬さなどを調べます。
とはいえ、100年前の医療が「見る・触るだけ」だったわけではありません。顕微鏡を使った病理診断はすでに行われていましたし、X線も医療に使われていました。日本の医学雑誌には、1920年に「胃のX線検査」、1922年には「胃悪性腫瘍のレントゲン診断」、1925年には噴門がんのX線診断についての記事が掲載されています。
ただし、CTが登場するのはずっと後のこと。現在のように体の中を断面画像で詳しく調べ、「どこまで広がっているか」を画像で確認することはできませんでした。
治療の主役は、やっぱり手術
手術で取り除けるがんなら、外科手術は重要な治療でした。
当時のがん手術を象徴するものの一つが、乳がんに対する「ハルステッド式乳房切除術」です。乳房だけではなく、胸の筋肉や脇のリンパ節まで広く切除する大きな手術でした。19世紀末に確立され、その後長い間、乳がん手術の中心的な方法として使われました。
なぜ、そこまで大きく切ったのでしょうか。当時は、がんが最初の場所から周囲へ順番に広がっていくという考え方が強く、「広がる前にできるだけ大きく取り除く」ことが治療につながると考えられていたからです。
現在の乳がん手術では、乳房を残す手術やセンチネルリンパ節生検など、必要以上に切除しない方法も広く使われています。100年間で変わったのは手術の技術だけではなく、「がんはどう広がるのか」という理解そのものでもありました。
意外にも、放射線治療はもうあった
ここは少し意外かもしれません。
X線が発見されたのは1895年。そのわずか数年後には、X線を病気の治療に使う試みが始まりました。ラジウムが発見されたのも1898年で、こちらも20世紀初めにはがん治療に使われるようになります。
日本でも1921年には国産の深部治療用X線装置が販売され、1922年には癌研究会が東京帝大分院内にX光線治療所を開設しています。さらに1926年の調査では、国内に深部治療装置が国産36台、外国製55台あったと記録されています。
つまり、「100年前には放射線治療なんてなかっただろう」と思ったら、そうでもありません。
もちろん現在とは大きく違います。今の放射線治療は、CTなどで腫瘍の位置や形を確認しながら、正常な組織への影響をできるだけ抑えて照射する技術が発達しています。1920年代は、そうした精密な治療へ向かう途中の時代でした。
では、抗がん剤は?
こちらは、まだ先です。
現在につながるがん化学療法が登場するのは1940年代。1947年には白血病の子どもにアミノプテリンを使った治療で一時的な寛解が報告され、1949年にはナイトロジェンマスタードが米国でがん治療薬として承認されました。
つまり1926年にがんになった場合、現在のように「手術、放射線、薬物療法から組み合わせを考える」という状況ではありませんでした。
その後、抗がん剤だけでなく、ホルモン療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などが加わり、がんの種類や性質に合わせて治療を選ぶ時代へと変わっていきます。
100年前の治療は、今の治療につながっている
100年前のがん治療を振り返ると、「昔は何もできなかった」というイメージとは少し違った景色が見えてきます。
医師は手術を行い、病理を調べ、登場したばかりのX線やラジウムを治療に使っていました。一方で、現在なら当たり前に使われるCTやMRI、抗がん剤、分子標的薬、免疫療法などはまだありません。
今では行われなくなった治療もありますし、当時の考え方が後になって覆されたこともあります。それでも、その試行錯誤の積み重ねが、現在のがん医療につながっています。
そして100年後の人たちが2026年のがん治療を振り返ったら、「この時代はまだ、こんな治療をしていたのか」と驚くことがあるのかもしれません。
キャンエビのまとめ
- 1926年には、診察や病理診断に加えてX線もすでに使われていた
- がん治療では外科手術が大きな役割を担っていた
- 放射線治療もすでに始まっており、日本には深部治療用X線装置が複数導入されていた
- 現在につながるがん化学療法が登場するのは1940年代以降
- 現在のがん治療も、100年以上にわたる試行錯誤の続きにある
参考文献
- 創刊期の「診断と治療」にみる大正医学(『診断と治療』、大正期の医学・診断に関する資料)
- 放射線治療 年表(JIRA 医用画像電子博物館)(日本の放射線治療・治療装置の歴史)
- 日本放射線腫瘍学会25周年記念誌「放射線治療機器の歴史 ~世界と日本~」(日本放射線腫瘍学会)
- Evolution of radical mastectomy for breast cancer(乳がん手術・ハルステッド式乳房切除術の歴史、2016)
- Milestones in Cancer Research and Discovery(米国国立がん研究所〈NCI〉、がん治療・化学療法の歴史)
- Radium traffic: radiation, science and spiritualism in early twentieth-century Japan(20世紀初頭の日本におけるラジウムと放射線の歴史、2021)








