「キャンサーギフト」という言葉を聞いたことはありますか? がんになったことで気づいたこと、変わった価値観、新しく得た人間関係などを「がんがくれたもの」という意味で表す言葉です。
ただし、「がんがプレゼントなんて、とても思えない」と感じる人もいるでしょう。キャンサーギフトは医学用語ではなく、すべてのがん患者に当てはまる考え方でもありません。一方、心理学の研究では、大きな病気や困難を経験したあとに、価値観や人間関係などに肯定的な変化を感じる人がいることが知られています。
「キャンサーギフト」は医学用語ではない
「キャンサーギフト(cancer gift)」には、医学的に決められた定義があるわけではありません。一般には、がんを経験したことで得られたと本人が感じるものを表す比喩として使われています。
たとえば、「家族や友人との関係を以前より大切にするようになった」「仕事中心だった生活を見直した」「普通の日常がありがたいと感じるようになった」「本当にやりたかったことを始めた」などです。何を「得た」と感じるかは人によってかなり違います。
大切なのは、これは「がんになって良かった」という意味とは限らないことです。がんそのものはつらい経験だったけれど、その経験を通して何かが変わった、と振り返る人もいます。
研究されている「PTG」という考え方
キャンサーギフトと重なるものとして、心理学には「PTG(Post-Traumatic Growth/心的外傷後成長)」という研究領域があります。大きな病気、事故、災害など人生を揺さぶる出来事を経験したあと、一部の人に起こる心理的な変化を研究する考え方です。
がん患者やがん経験者を対象とした研究でも、人生の優先順位が変わる、人間関係を以前より大切にするようになる、日常への感謝が強くなる、自分自身の強さに気づく、生き方や仕事を見直す、といった変化が報告されています。
ただし、PTGは「つらい経験をすれば人は成長する」という意味ではありません。研究ではPTGを感じる人もいれば、あまり感じない人もいます。また、肯定的な変化と心理的な苦痛が同時に存在することもあります。
「つらかった」と「得たものがあった」は両立する
ここは、キャンサーギフトを考えるうえで意外と重要なところです。
「がんになって本当につらかった。でも、人とのつながりの大切さにも気づいた」「治療は二度と経験したくない。でも、それをきっかけに仕事や生き方を変えた」。こうした二つの気持ちは、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
PTGの研究でも、心理的な苦痛がなくなったから肯定的な変化が生まれる、という単純な関係ではないことが示されています。つらさを抱えながら、同時に何か新しい意味を見つけることもあります。
つまり、「得たものがあった」と感じることは、がんになったことそのものを肯定することとは別です。
では、なぜ「キャンサーギフト」という言葉が嫌な人もいる?
一方で、この言葉に強い違和感を覚える人もいます。それも不思議なことではありません。
「がんになったおかげで成長できた」と言われているように感じたり、「病気にも意味があったと思わなければいけない」という圧力に聞こえたりすることがあります。診断されたばかりの人や、治療の副作用でつらい時期にいる人にとっては、「ギフト」という言葉そのものが受け入れにくい場合もあるでしょう。
実際、がん経験を「gift」と表現することについては、患者や経験者の間でも意見が分かれています。自分自身の経験について「キャンサーギフトだった」と表現することと、他人に対して「がんになったからこそ得たものもあるでしょう」と意味づけすることでは、かなり意味が違います。
キャンサーギフトは「見つけなければならないもの」ではない
研究でPTGが確認されているからといって、がんになった人が何かを学んだり、成長したりしなければならないわけではありません。「特に得たものなんてない」「ただ大変だった」と感じることも、その人自身の経験です。
反対に、「がんになったこと自体は嫌だけれど、それをきっかけに変わったことの中には大切にしたいものもある」と感じるなら、それもまた自然な受け止め方です。
キャンサーギフトがある人も、ない人もいます。がんになったことを肯定しなくても、その後に見つけたものを大切にすることはできます。
キャンエビのまとめ
- 「キャンサーギフト」は医学用語ではなく、がんを経験したことで得られたと感じる変化や気づきを表す比喩的な言葉です。
- 心理学には、重大な経験のあとに起こる肯定的な心理変化を研究する「PTG(心的外傷後成長)」という概念があります。
- がん経験者を対象とした研究では、人生の優先順位、人間関係、日常への感謝、生き方などの変化が報告されています。
- PTGは全員に起こるものではなく、心理的な苦痛と肯定的な変化が同時に存在することもあります。
- 「キャンサーギフト」という表現を好む人もいれば、違和感を持つ人もいます。どちらかの受け止め方が正しいというものではありません。
「がんになって良かった」と思う必要はありません。でも、もしその経験のあとに「これは大切にしたい」と思えるものが見つかったなら、それをがんとは切り離して、自分の人生に残しておいてもいいのかもしれません。
参考文献
- Post‐Traumatic Growth in Adult Cancer Survivors: A Scoping Review of Psychological Factors, Predictors, and Interventions(レビュー論文、2025年)
- Post-traumatic growth in people with cancer: A meta-synthesis of qualitative studies(メタ統合、2026年)
- Post-traumatic growth in cancer survivors: What is its extent and what are important determinants?(研究論文、2023年)
- Post-traumatic growth and cancer survivorship: experiences of living with treatment-related impairment(研究論文、2026年)
- The relationship between post-traumatic stress and post-traumatic growth in cancer patients and survivors: A systematic review and meta-analysis(システマティックレビュー・メタ解析、2020年)
- The gift of cancer? Perspectives vary widely(Fred Hutch Cancer Center、患者・経験者のさまざまな見方を紹介)








